みすず書房

「読書は実用や教養のための行為ではなく、やむにやまれぬ性癖のようなものだということから、『読書癖』というタイトルの本を出して、それが三冊までになった。その時々、好き勝手に本を読んで、感じたままの印象を書いてきた。だから、そこで言っていることはまったく個人の思いであって、いかなる権威もない……

『ハックルベリー・フィンの冒険』の冒頭には、〈この本に主題を見つけようとする者は告訴し、教訓を見つけようとする者は追放し、筋書を見つけようとする者は銃殺する〉という警告の文がある。ぼくはそこまで冷酷ではないが、あなた自身の読む楽しみの支援以外の目的のためにこの本を用いようとした場合は〈そういう人は嫌いです〉と言われることを覚悟していただきたい」(あとがき)。

本書にはまず、保坂和志・中上健次から『ユリシーズ』の翻訳・『少年H』、生命の意味から援助交際まで、多様なテーマを論じた反権威的な文芸時評を収める。さらに、吉行淳之介・日野啓三・フォースターなど、読む楽しみに充ちた作家論・エッセーなど、25篇。自由=独歩の読書人による本をめぐる旅の軌跡、全四巻完結。

目次

I
文芸時評1996年4月から1998年3月
II
リズムのドリル
空気と鉄の開花
時間と空間のホログラフィー
『便利のレベル』の先
二十年の贅沢
幸福な人生
日野啓三『光/聖岩』
ミッチェル・ワールドロップ複雑系 二十一世紀の科学革命』
『入澤康夫〈詩〉集成』
島袋善祐『基地の島から平和のバラを』
照屋林助『てるりん自伝』
セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』
小熊英二『〈日本人〉の境界』
III
十六段の階段
事実と哀惜、それに意地
『砂の上の植物群』と性的実験
内なる批評家とのたたかい
彼岸へ渡る契機
海の上で暮らす
六冊の本
私的ロビンソン物語
星の王子さまへのオマージュ
ニュー・ヨーロッパの文学
E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』
E・M・フォースター『ファロスとファリロン』
あとがき
書名・作品名索引