みすず書房

『詩のトポス』から7年、著者初めてのエッセイ集である本書において、文章と講演録は同じ比重を持っている。「詩、文学、絵、書などをテーマとしたもの、風景をめぐって書かれたものがある。万葉集やフランス文学や日本の現代詩についてふれたものがあり、自分自身の詩について語っているものがある。このエッセイ集のテーマを——これらの文をまとめさせたものをあえて言うなら、わたしなりの世界との出会いということになるだろうか」(あとがき)

ソニア・リキエル、デュブーシェ、デュパン、ジャコメッティ、ブラン・ヴァン・ヴェルデ、宮沢賢治、中原中也、有間皇子、世阿弥……。これらの固有名の向こう側から立ちのぼる匂い。やって来る光の息吹き。そうした世界との出会いを記す言葉は、ときに華やぎ、ときに口ごもる。けれども、見つめ、見つめ返されながら、高見順賞を受けた詩集『定本 闇』の詩人は、世界の分厚さのなかに分け入りつつ、その声にこたえようと試み、その軌跡がここにある。