みすず書房

「人間も六十を過ぎるとその年月の間に得たもの、失つたもののことを思ふだけでも過去を振り返り、自分の廻りを見廻すのが一つの自然な営みになり、これは記憶も現在の意識も既に否定も反撥も許されなくなつたもので満たされてゐることであつてその中でも大きな場所を占めてゐるのが友達である。」

好きな書物を読み返すとは、書物を時間の流れに挿し入れて、そのなかの言葉に時間を注ぎこむことに他ならない。そして、ある一人と知り合い、それが友情へと育って、時間の流れのなかで友は友となってゆく。そう、吉田健一において書物と言葉と友とはいわば円環をなすようにたがいに結びついている。その円環をとおして滑らかに流れているのが《時間》なのである。

『交遊録』『書架記』を軸に選び抜かれた吉田健一世界の精髄。