みすず書房

短詩型の文学

外山滋比古著作集 6

判型 四六判
頁数 360頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-04856-5
Cコード C1395
発行日 2003年1月6日
備考 現在品切
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短詩型の文学

ひとむかし前のことになるが、桑原武夫の書いた「俳句第二芸術論」なる論文が一大猛威をふるったことがある。これは種本があって、彼はイギリスの学者I・A・リチャーズの『実践批評』のテクストを下敷きにしていたのだが、そんなことは俳人たちの知らぬことであった。彼らはその単純な近代的な論理にむきになって反抗したが、どうも景気のいい堂々たる反論はできなかったようである。

本巻のテーマは、この事件を契機にして、著者によって構想・追求された〈反=俳句第二芸術論〉である。俳句を成立させている肝心要の、切れ字や季語、添削と結社など、世界に類を見ない、その日本独自の特性を明らかにし、西欧の近代的リアリズムに優る方法として俳句的表現を称揚する。芭蕉・子規から現代俳句までを渉猟し、読者の立場から俳句の特性を追究してゆく姿勢はまことにスリリングである。俳句を中心に、ひろく日本語の表現・論理を考察した刺激的な論攷。

目次

I 省略の文学
切れ字/省略の文学——切れ字論/俳句における近代と反近代/季について/俳句と点描主義/添削の思想/F氏とのひと時/矛盾について/俳句とイロニイ
II 俳句的
通俗の論/封建的/名実を忌む/枯れ/冷え/目と耳/なまけもの/耳の形式/編集/声と顔/点と丸/視点/よむ?/点と点/音楽と絵画の間/けずる/放つ/季語の地理/季寄せ/季語のテンス/季語は“引用”/切れ/切れ字断章/調べ/写生/新しい声/人脈/杉風論の文体/俳句的レトリック/俳句の文法
III 短詩型文学
翻訳文化と詩の言葉/詩の真実/きょうめい/小さな「私」/作者の顔/詩人・批評家/野外/終わり/大雪/近代散文/ふくみ/あそび/俳句と省略/現代の俳句/点描モンタージュ/清水に魚棲