みすず書房

表題の「ドン」とは、簡単にはオックスフォード大学とケンブリッジ大学の教師を意味する言葉である。つまり、本書はオックスブリッジの「ドン列伝」であり、とりわけ異彩を放った「良き教師と奇人と天才たち」の評伝集である。

たとえば、「名声や勲章や表彰状には大喜びし、男爵の爵位もためらいなく受けたが、遺産はほんのわずかしか残さなかった」天才物理学者のラザフォード。殉教者の血といわれる敷石の黒いシミをなめて、「これはコウモリの小便です」と言った地質学者のバックランド。もっとしゃべりたいと思って、逃げ出した客人のベッドの端にちょこんと坐りこんだ話し好きのバーリン。他にも、宗教家のニューマン、電子の発見者トムソン、古典学者のジャウェットなど、良くも悪くも人並み外れた「ドンたち」のエピソードが温かくユーモラスに紹介され、その言動・業績が公平に考察される。小さな傑作『てのひらの肖像画』につづく、読んでたのしい評伝集。