みすず書房

ハイデッガー ツォリコーン・ゼミナール【新装版】

MARTIN HEIDEGGER: ZOLLIKONER SEMINARE

判型 A5判
頁数 462頁
定価 6,820円 (本体:6,200円)
ISBN 978-4-622-04919-7
Cコード C3010
発行日 1997年10月9日
備考 現在品切
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ハイデッガー ツォリコーン・ゼミナール【新装版】

「わたしたちは奇妙で異様で不気味な時代に生きています。情報量が猛烈に高まれば高まるほど、それだけますます決定的に諸現象に対する目のくらみと盲目が広がっていきます。情報に際限がなくなればなくなるほど、現代の思惟がだんだん見る力を失い、効果と、そしておそらくはセンセーションしか見込めない見識を欠いた打算になってきていることへの洞察能力は、ますます弱くなります。しかし思惟が打算ではなく、感謝であることを経験できる人々はまだ少しはいるのです。思惟が感謝だというのは、思惟が、開かれていることからの語りかけ、つまり存在するものがあるのであって無があるのではないという語りかけのおかげで可能となり、この語りかけを受け取るという仕方でつねにそれに直面し続けている限りのことです。この〈ある〉において、存在の語られざる言葉が人間に語りかけています。人間の卓越性と危機とはともに、存在者としての存在者にとって多様なありかたで開かれて立つということに基づいているのです。」

晩年の十数年間、ハイデッガーは精神科医のメダルト・ボスと深い親交があり、スイスはチューリッヒ近郊にあるツォリコーンのボスの自宅で、1959年から11年間、定期的なゼミナールをひらいていた。参加したのは50人ほどの精神科医や臨床心理学者たち。非専門家に向かって、ハイデッガーは自分の哲学を、厳密にしかもわかりやすく語りかけている。「存在とは何か」という根本問題を基底に、『存在と時間』から〈転回〉をへて、晩年の科学技術や地球の危機をめぐるその思索のすべてを。わけてもここでは、心身問題が大きなテーマになっている。ビンスヴァンガーやブランケンブルク、シラジへの鋭い批判も挿まれている。

語りと対話と書簡の三部構成からなる本書は、20世紀最大の哲学者の人と思想を伝えてあまりある。そして何よりも〈問うということ〉の大切さと深さを、われわれに教えてくれる。