みすず書房

御真影と教育勅語を中心とした「奉体」の形成過程とその波紋。内村鑑三・久米邦武・井上哲次郎の不敬事件、南北朝正閏問題など。

日本近現代教育を根底において方向づけたもの——それは天皇制との構造連関であろう。この連関をまさに表象する「御真影と教育勅語」についての多彩な資料を、ここにはじめて集大成して刊行する。
本巻は「御真影」の下賜が開始された森有礼文政期より始めて、教育勅語の制定、謄本下付の状況、それらが学校運営に与えたさまざまな影響を示す公文書資料を網羅する。このほか、内村鑑三、久米邦武、井上哲次郎らの不敬事件、国定教科書と南北朝正閏問題、学校火災に際しての「奉護」殉職といった側面、さらに日清戦争後の社会変動に伴って現れてきた教育勅語の内容に対する不満足の声と、戊申詔書をはじめとする補完の詔勅、天皇歴代表の修正、などの資料を収録。一貫して磐石であったと考えられがちなシステムの実態を、改めて浮かび上がらせる。教育史研究の新展開のための画期的道標となろう。


[1994年12月初版発行]

目次

解説

一 儀式・御真影・徳育方針——その前史
(1)森有礼文相期の諸方策
(2)明治23年2月の地方長官会議とその建議
二 教育に関する勅語の発布
(1)教育に関する勅語制定関係「公文類聚」史料
(2)教育に関する勅語の発布とその謄本の下付
三 「奉体」の形成
四 軋轢と悲劇
(1)内村鑑三不敬事件
(2)熊本英学校事件
(3)久米邦武不敬事件
(4)島根県立第一尋常中学校(松江中学校)生徒不敬事件
(5)教育勅語謄本の法的性格——宮城・岩手両県にまたがる教育勅語謄本窃取・消却事件
(6)南北朝正閏問題
(7)井上哲次郎不敬事件
(8)教職員などの「奉護」殉職
五 動揺と補強
(1)改訂・廃止・追加の試みと意見
  1 文部大臣西園寺公望による教育勅語改訂問題
  2 中島徳蔵と「勅語撤回」事件
  3 牧野謙次郎「請撤勅語」
  4 伊藤博文「教育勅語追加ノ議」
  5 井上哲次郎と植民地教育をめぐる教育勅語改訂論
(2)補完の詔勅
(3)天皇歴代表の再修正——長慶天皇の追加
付録