みすず書房

前世紀末の社会主義は「溢れるような若さの絶頂にあった。それに対して、今世紀末のそれは失望と幻滅に苛まれている」(M. ジェイ)。われわれは、何に、どのような理念に希望を託しているのか? こう問うとき、ベルンシュタインに今ふたたび光を当てる意義が明らかになる。
マルクス主義の陣営における「修正主義者」、西欧社会民主主義の側での「先駆者」、ベルンシュタインの思想に対する政治的レッテル貼りは、まさに〈冷戦〉の時代の象徴であった。本書第1部では、この二極対立構造に依拠したベルンシュタイン解釈を批判的にとらえ、彼のイギリス亡命時代の知的営為に着目することによって、新しいベルンシュタイン像が描かれる。
19世紀末にはフロイト、ウェーバー、ディルタイ、デュルケムなど知的巨人が輩出する。ドイツでは、政治的事態は下向線をたどっていたが、知的には上向線が描かれつつあった。本書第II部では、こうした雰囲気の中にあったベルンシュタインと同時代人たちの展開する思想世界が考察される。
数多くの思想史的ドラマを生んだ〈亡命〉と〈世紀末〉をキーワードに、党派性を超克した初のベルンシュタイン研究である。

[1995年2月初版発行]

目次

序——亡命と「世紀末」

第 I 部 ベルンシュタインの思想形成
第1章 ベルンシュタインと亡命
ベルンシュタイン像の再検討/亡命と思想形成
第2章 ベルンシュタインと「修正主義」
チューリヒ亡命時代/「修正主義」の形成過程
第3章 ベルンシュタインと「イギリス体験」(I)——イギリス革命史研究と社会主義
「イギリス体験」としての17世紀革命史研究/ベルンシュタインと1648年の急進派/17世紀と19世紀の「世紀末」/知的地平の拡大と新たなヴィジョン
第4章 ベルンシュタインと「イギリス体験」(II)——新たな社会像の展望
イギリス労働運動の展開とベルンシュタイン/新たな社会像の形成/「イギリス体験」の帰結
第5章 二つの「世紀末」における社会主義と民主主義——「社会民主主義」とベルンシュタイン
二つの「世紀末」とパラダイムの変貌/「社会民主主義」の歴史的評価をめぐって/ベルンシュタインにおける社会主義と民主主義

第 II 部 ベルンシュタインと同時代人たち
第1章 世紀転換期と社会主義——カウツキー、ミヘルス、ベルンシュタイン
「知的革命」をめぐる思想家群像/カウツキーにおけるリアリズムとオプティミズム/ミヘルスの批判的考察/ベルンシュタインと危機の社会認識
第2章 ウェーバーとドイツ社会民主党
ウェーバーの社会民主党観とその問題点/「覚書き」におけるウェーバーの視角/世紀転換期の社会民主党とウェーバー/ウェーバーの労働組合論/政治社会学の新たな展開
第3章 オストロゴルスキーとウェーバー
空白の研究史/「新しい社会」とオストロゴルスキーの悪夢/世紀転換期の政治をめぐって/「民主主義革命」と二つの道

補論 「修正主義論争」とウェーバー——『ブラウン・アルヒーフ』から『ウェーバー・アルヒーフ』へ

あとがき