みすず書房

〈パレートが身を委ねた知的伝統をあげるとすれば、それはマキャヴェリであり、マキャヴェリズムである。……社会生活を実際につくり上げているすべての幻想をはがして、そこに別のヴィジョンをつくり上げようとするのである。〉R. アロン

〈パレートの業績は、研究のプログラム以上のものである。それは単なる分析以上のものである。近代人が——われわれ経済学者こそ近代人である——非常に必要としている教訓を伝えるものである。それは垂訓の試みである。〉J. シュンペーター

世紀の転換点、知的変革の時に出現した大体系家パレートは、さまぎまな顔をもっている。ワルラスの後継者、一般均衡理論および新厚生経済学の開拓者、そして社会学の父の一人、民主主義的エリート論者、さらには〈ファシズムのマルクス〉とさえよばれる。彼は学問的評価の対象であるばかりでなく、政治的論争の渦中にも投ぜられた。パレートは、巨大で矛盾にみちたマグマの様相を呈している。彼の思想は、経済諸理論の合理性と人間の行動の非合理との矛盾の凝視であり、彼の眼は経済から社会へと開かれている。
著者は、この限界革命とケインズ革命の間を生きた経済学者の経済思想史上の位置を検証するとともに、社会・人文諸科学の総合をめざした社会学的思考を探究する。確実性の終焉と〈合理的〉ユートピアのかげりの時代において、パレートのヴィジョンとパースペクティヴが示すものは何であろうか?

[1985年初版発行]

目次

序章——パレート理解の諸類型

I 時代と思想
1 人生と思想の出発点
2 非妥協的自由主義者
3 保守的自由主義の基本構造
4 ローザンヌにおけるパレート
5 1900年代
6 パレート『一般社会学概論』の基本構造
7 「保護主義」の社会学的分析
8 現代社会と民主主義
9 「ファシズムのマルクス」か?
10 歴史と体制

II 経済学
1 パレート経済学の展開
 1 はじめに
 2 『経済学講義』
 3 経済学と社会学
 4 「快楽主義的公準」をめぐって
 5 『経済学提要』
 6 小括
2 ワルラスとパレート——パレートの経済学方法論
 1 対立の根
 2 経済学体系の構成
 3 経験、理論、実践
 4 経済学——対象・性格・方法
 5 「社会的富」と稀少性
3 パレートのマルクス経済学批判
 1 マルクス経済学批判の諸類型
 2 パレートの経済思想の「残基」
 3 「転形問題」と労働価値説の必要条件
 4 パレートの社会主義像
 5 パレート、ソレル、クローチェ

III 経済学から〈社会学〉へ
1 経済学と社会学の間
 1 はじめに
 2 パレートの目を通した「経済システム」の特質
 3 オフェリミテと効用
 4 社会学的分析の第一段階——「社会にとっての効用の極大」
 5 社会学的分析の第二段階——「社会の効用の極大」
 6 小括
2 分配と「勢力」——パレートにおける経済と政治
 1 問題の所在
 2 パレートの分配理論(1)——経済学的アプローチ
 3 パレートの分配理論(2)——「社会学」的アプローチ
 4 マーシャルとパレート
 5 残された問題
3 パレートにおける「合理性」の意味と意義
 1 合理性の諸相
 2 「論理的行為」と「非論理的行為」
 3 非論理的行為、類型と構造
 4 「論理・実験的命題」とその意義
 5 社会的行為の「合理性」とは何か

パレート年譜
あとがき
『ヴィルフレード・パレート全集』目録
索引