みすず書房

G・E・ボワソナードは明治維新直後日本の法制度の近代化のために政府の招請で来日、いわゆる「お雇い外国人」の中でもっとも著名である。刑法典、刑事訴訟法典、民法典等の起草に当るとともに司法省法学校、東京大学等諸大学の法学教師として近代的な法律家の育成に努めた。彼は法学者であり、またすぐれた経済学者でもあったことは本書によって知られるであろう。

これはボワソナードが1872年(来日の前年)2月パリ大学法学部で行なった公開講義で、フランスの古典ラ・フォンテ一ヌの『寓話』を素材として経済の視点から作品を考察し、その社会経済思想を探究しようとしたものである。『寓話』はイソップ寓話その他を材料とした寓話詩で、フランスでは広く愛好されており、日本人にもなじみ深いものである。ボワソナードは、この『寓話』の「二匹の鼠と狐と卵」「亀と二羽の鴨」など多くを引用し、その中にふくまれている考えが経済の理に合っているということを説いている。巻末のボワソナードの経済思想についての懇切な解説は本書の理解に資するところ大であろう。

[1979年初版発行]

目次

はじめに
  紳士淑女諸君 私は、諸君が経済学者としてのラ・フォンテーヌについての講演という掲示をみて微笑をされたに相違ないと……
1
  先ず、富の生産。経済用語を用いて言うなら、富は、人間によってその欲求の満足に、すなわち先ず第一に生きることに、適するようにされた物……
2
  我々は労働・知恵・資本による富の「生産」を考察しましたので、今や我々は富の「交換」と「流通」とに到達したのです。……
3
  富の流通は、経済学のうちでラ・フォンテーヌが我々に忠告を与えることが最も少い部分です。彼は、「労働」が賃金の名で……
4
  富の消費の理論には、「贅沢」と「倹約」とが考慮されています。学者に向って金を使わないといって避難するあの大金満家の……
5
  経済学は、その教養的な部分を探究するだけでなく、諸国民のために幸福と繁栄とを求めて、人間の最も気高い本能に訴えます。……

原注・訳注
「寓話」の引用に関する注
解説(野田良之)
訳者あとがき