みすず書房

本書には〈比較文化論〉をテーマとした著者の晩年の思索と摸索のあとを示す4篇の講演に、半世紀以上も親炙した西欧の法哲学者であり「美わしき魂」であったグスタフ・ラアトブルフについての文章、さらに竹内好への追懐の一文を収める。

著者は言っている。「われわれは集団のなかに逃避してはならない。集団のなかで自己の責任を自覚すべきである。そして集団の名において個性を抹殺すべきではなく、集団のなかでの自覚こそが個性発展の原動力でなければならない。これこそがラアトブルフの社会主義であり、これこそが相対主義の根本要請である。他人の声をどこまでも尊重しつつ、自己の受けもつ声を忠実に執拗に守りつづけること、これが合唱におけるもっとも美わしいハルモニィをつくり出す秘密である。合唱の精神ほどラアトブルフの相対主義の真義を鋭く表現しているものはないであろう」(本書188頁)

こうした相対主義の思想とハルモニィへの熱情が著者の生涯と学問をつらぬく琴線であった。本書は論文ではなく一般読者に向かって語られている。心情の切実と自由の判断に支えられた美しい文章であり、まことに現代に、稀であってかつ貴重な知恵の書といえよう。

[1986年初版発行]

目次

凡例

日本人の性格とその法観念(1971)
西欧人の法観念と日本人の法観念(1972)
比較文化論者としてみた内村鑑三(1972)
比較文化論的に見た日本人の法観念(1981)

ラアトブルフを偲んで(1960)
ラアトブルフ「社会主義の文化理論」あとがき(1953)
ラアトブルフの思想における詩の問題(1976)
ある美わしき魂への頌(1978)
(付録1)短気について(ラアトブルフ)
(付録2)主知主義について(ラアトブルフ)
(付録3)抒情詩について(ラアトブルフ)
竹内好追懐(1978)

あとがき(佐々木斐夫)