みすず書房

近代文化史 1【オンデマンド版】

ヨーロッパ精神の危機/黒死病から第一次世界大戦まで

KULTURGESCHICHTE DER NEUZEIT

判型 A5判
定価 9,350円 (本体:8,500円)
ISBN 978-4-622-06227-1
Cコード C1020
発行日 2011年5月19日
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近代文化史 1【オンデマンド版】

「一人の人間や一つの出来事全体をあらわすのに、こまごまと描写するよりも、手の動かし方一つだけ、たった一つの細部描写だけをするほうが、いっそう鮮明に、印象的に、本質に迫る性格をあらわすことがしばしばあるのだ。要するに、《逸話》こそいかなる意味合いにおいても、文化史記述の唯一正当な芸術形式である」(フリーデル)

本書はフリーデルの大著『近代文化史』(全3巻)の第1巻にあたり、黒死病(ペスト)の時期からルネサンスと宗教改革を経て30年戦争までを扱っている。中世の食卓情景から鞭打ち苦行者、ラファエロやミケランジェロの芸術、ルターの功罪、新大陸の発見まで、地上の現実から天国にいたる宇宙の森羅万象を、フリーデルは軽妙かつ辛辣な筆致で説き語る。ホイジンハの中世、ブルクハルトのルネサンスを継ぐ、一味ちがった刺戟的な《近代》の悲喜劇がここに幕を切って落とされる。
フリーデルはウィーン生まれの劇作家・俳優にして小説家・評論家・エッセイストであり、なによりも偉大なるディレッタントであった。彼の該博な知見と柔軟な想像力が生み出したこの巨大なエッセイ集ともいうべき《近代文化史》は、刊行されるや、国際的な注目を集め、文化史の古典となった。

「フリーデルの『近代文化史』は、この分野でのもっとも進歩的で、もっとも賢明で、もっとも繊細なものである、と私は思う。大いなる賞讃を博する運命をもつ書物であって、真面目にして愉快、博学にして軽快、人間への愛情と人間についての知識にあふれている」(トーマス・マン)

[1987年5月25日初版発行]

目次

訳者による前書き

序 文化史とは何か、人は何のために文化史を学ぶか
忘れられた星/どんな物事にもそれなりの哲学がある/審美的、倫理的、論理的歴史記述/地図と肖像画/学校教科書の歴史/歴史の基礎概念の非科学性/歴史的な作用の、地下の流れ/ランケの誤解/すべての歴史は伝説である/ホムンクルスとオイフォーリオン/「歴史小説」/最大限の不完全さ/誇張/文化の諸領域の階級制度/経済/社会/国家/風俗/学問、芸術、哲学、宗教/賢者の石/代表的人間/表現主義的な犬/魂の衣裳の歴史/天才は時代の産物なり/時代は天才の産物なり/天才と時代は同一の尺度では測れない/血統/レッシングとヘルダー/ヴィンケルマンとヴォルテール/ヘーゲルとコント/バックル/ブルクハルト/テーヌ/ランプレヒト/ブライジヒ/シュペングラー/文明史/Pro domo/職業的ディレッタント/避けがたいパラドクシー/合法的な剽窃/病的および生理的な独創性


第一部 ルネサンスと宗教改革 黒死病から三十年戦争まで
第1章 はじまり
分類への意志/時代を区分する精神/新しい人間の受胎/「過渡期」/病気の価値についての余談のはじまり/もっとも健康なのはアメーバだ/生成するものすべてデカダンなり/下等な器官の高い価値/健康とは新陳代謝の病いだ/レルネーの水蛇/かかとの切れたアキレウス/最大の適応力をもつ者が生き残る/健康な天才はない/病的な天才はない/人類の三分類/生産への逃避

第2章 中世の魂
中世の「ロマン主義」/冒険としての人生/性的成熟の神経症/聖なる犬/金との縁を断つ/普遍は現実なり/世界は大教会/信仰の物理学/万物は存在する/場面転換

第3章 潜伏期
ペストの発明/ペストに付随した流行病/井戸に毒を投じる者/宇宙的規模の混乱/この世の没落/普遍的概念の退位/ロバになったキリスト/唯名論の二つの顔/薄暮の状態/循環性精神病(躁鬱症)/階級制度の弛緩/上からの無政府状態/形而上学的器官の病い/実践的ニヒリズム/高まる経済生活/職人組合の隆盛/職人的ディレッタンティズム/合理主義の目ざめ/現実文学/解放/騎士階級の没落/価値の大転換/絵に描いたような汚物/オリエント風の喧騒/生活水準/街道/神聖な裁判/恋愛を押しのけた性欲/食の文化/悪夢の世界/四つの責め具/ルクセンブルクの彗星/王冠をかぶった偏執狂/英仏間の混沌/反教会主義/ウィクリフ/勝ち誇る教皇/魔神と魔術師/心ならずも金の世の中/この世は娼家/愚者の衣裳/幻覚/玉座についた投機師/玉座のニヒリスト/三人の詐欺師/正反対なものの共通点/ニコラウス・クサヌス/二重の真理、二重帳簿、対位法そして死者の踊り/超越した魂/新しい宗教/エックハルトの流派/「フランクフルトの男」/絵になった神秘主義/平行線/上昇する世界

第4章 ラ・リナシータ(再生)
二つの極/文化とは問題の宝庫なり/イタリアの小宇宙/「ラテン層群」/神の似姿への生まれかわり/中世との別れ/ルネサンスの時代区分/リードするイタリア/初期資本主義の花盛り/ルネサンスの都市/暮らしの快適さ/芸術的な食事の楽しみ/横顔の世界/煽動的新聞の誕生/神のごときアレティーノ/偉大なる淫売婦/普遍的人間/ルネサンスの公衆/イタリアの「分裂」/「古典古代への帰還」/ペトラルカ/見かけのルネサンス/十六世紀/様式化の意志/ソフィスト的な時代/人文主義者/ルネサンスの「文学的」性格/文化の断面/造形芸術の優位/ミケランジェロ/レオナルド/ラファエロ/後世におけるラファエロの名声/「神の寵児」/擬古典主義の根本的誤り/マキャヴェリ/「非道徳主義」/ルネサンスの「罪」/美か善か/二つ目の堕罪

第5章 理性の闖入
世界史は劇的な問題である/近代のドラマ/新しい眺め/1500年から1900年への軌跡/「原始人」の神秘的経験世界/論理以前または超論理か?/合理主義的な幕間劇/三つの黒い術/パラケルスス/人的資源と活字/コペルニクス/「ノン岬」の征服/コロンブス/一千百日間世界一周/征服者たちの犯罪/メキシコの後期文化/アステカ人の宗教のキリスト教的要素/白い神様/ペルー/アメリカからの復讐の贈り物/ファウスト/神に対する人間の勝利/神中心から地球中心の世界像へ/アウグスティノ会士

第6章 ドイツの宗教
神と諸国民/宗教改革の四つの構成要素/ヴィッテンベルクの小夜啼鳥/宗教改革以前の改革者/鍬入れ/ルター、二つの顔/最後の僧/大いなる危機/不滅のヤハウェ/ルターのダマスカス/ルターの英雄時代/創造的な面/ルターの教皇/グーテンベルク人がゴシック人に勝つ/言語創造者としてのルター/ルターと諸芸術/ルターと農民戦争/ルターの衰え/ルターと化体説/ルターの苦行理論/パウロ/ユダヤの使徒/アウグスティヌス/キリスト教の自己正当化の真意/カルヴァン主義/ラディカルな人々/ゼバスティァン・フランク/枢密政治の誕生/ハプスブルク家の心理学/カール五世の秘密/宗教に勝った神学/奇怪な被造物/田舎者流儀/フランソワ・ラブレー/平民気質いまだ衰えず/飽食の古典時代/徒歩傭兵スタイル/芸術工芸の天下/魔女の槌/魔女妄想と精神分析/人類の世俗化/福音にそむく福音主義者/イエスと「社会問題」/神と魂/神聖な無為

第7章 サン・バルテルミーの夜
地上の地獄/反動/トリエントの公会議/全ヨーロッパ的不寛容/英国教会/自然法/イエスの軍団/イエズス会の教義のユニークさ/フェリペ二世/ぼた山の世界/スペインの植民地政策/オランダの離反/フェリペ体制の崩壊/ドン・フアンとドン・キホーテ/スペイン様式の世界支配/フランス擬古典主義と歌劇の自然主義/生の肯定から生まれた懐疑家/モンテーニュ的人間/ヤーコプ・ベーメ/ジョルダーノ・ブルーノ/フランシス・ベーコン/イギリスの興隆/エリザベス時代人/資本主義の腕白時代/厳密科学/望遠鏡の世界/個性的人物としてのベーコン/哲学者としてのベーコン/ベーコンの前にベーコンあり/ベーコンの反哲学/ベーコンの名声/影の国王/シェイクスピアの魂/シェイクスピアの劇場/夢としての世界/ルネサンスの臨終/二つ目の衝撃

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