昭和憲兵史【オンデマンド版】

判型 | A5判 |
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定価 | 14,300円 (本体:13,000円) |
ISBN | 978-4-622-06233-2 |
Cコード | C3021 |
発行日 | 2011年5月19日 |
備考 | オンデマンド版 |

判型 | A5判 |
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定価 | 14,300円 (本体:13,000円) |
ISBN | 978-4-622-06233-2 |
Cコード | C3021 |
発行日 | 2011年5月19日 |
備考 | オンデマンド版 |
「あの戦争中猛威をふるったと信じられている憲兵については、いまでも超権力的な象徴のように、時々、人々のロにのぼっている。そこでは、権力悪の権化のような憲兵の幻影が、国民の間に定着しているかのように見える。……今日では昭和の暗黒史といわれる、その初頭から終戦に至るまでの二十年間の出来事は、おおよそ世に出しつくされた観があるのに、ひとり憲兵、それはこの歴史の主軸をなす軍の内側にあって、つぶさに軍を監察し、また、軍と国民との接点にあって、その一翼を担っていた憲兵の業態が、その姿を国民の前に写し出されていないことは、不思議なことである。……わたしは、憲兵を十五年間生活してきた。丁度、昭和の始め頃憲兵科に入って終戦に至ったのであるから、昭和の戦争時代を憲兵に生きてきた一人である。……元来、憲兵の任務は軍事警察と治安維持にあったし、その仕事は決して派手なものではなく、もともと縁の下の力持ちというか、蔭のうちの仕事であるから、社会の出来事として目を引くものは少ない。だから軍事警察といっても軍のうち側の叙述にとどまっているし、治安警察といっても、国内治安情勢の動き、ことに、昭和維新運動のはげしかった十一年前後に、その中心がしぼられているにすぎない。しかもそれらも東京中心、私の周辺にあった出来事が主体となっているので、昭和の憲兵史といい条、わたしの憲兵史に堕してしまった感が深い。このことからいえばおこがましい次第ではあるが、しかし、昭和前代における憲兵の動きだけは正確にとらえているつもりである。なお憲兵の動きについては、その事のよしあしにかかわらず、赤裸々に書きのこすことに努めた。」(著者「自序」)
巻末に250頁にわたる資料を収め、久しく待たれた増補新装版である。
[1966年4月15日初版発行、1979年新装版第1刷発行]
自序
はじめに 憲兵制度のあらまし
序章 憲兵六十五年
1 創設 2 明治、大正の頃 3 暗黒の昭和
I 赤い思想と軍隊
一 むしばまれる軍隊と憲兵の思想警察
1 平和とデモクラシーの中の軍隊 2 軍隊は社会の縮図 3 押しよせる荊冠旗 4 直訴者北原泰作 5 秘密結社日本共産党 6 暴力化する赤化攻勢 7 非常時共産党の出現
二 日本共産党の対軍策動
1 対軍赤化方針 2 軍隊内における共産党の蠢動 3 逓増する部内策動 4 軍隊に対する外部よりの策動 5 非常時共産党軍事部の暗躍 6 その対軍反戦策動 7 海軍に細胞確立せらる 8 憲兵の思想警察 9 思想は憲兵に聴け 10 共産党の停頓と内紛 11 軍事工作衰えず
II 憲兵の治安出動と警衛
一 憲兵と治安出動
1 治安のうしろだて 2 宮崎の市民暴動 3 岐阜県農民騒動 4 高知の漁民騒擾
二 大逆事件と憲兵の警衛
1 難波大助大逆事件 2 朝鮮独立党の天皇抹殺 3 天長節の爆弾 4 ただ皇室の御安泰を
III 国家革新のあらし
一 革新右翼と憲兵警察
1 革新右翼の擡頭 2 浜口首相凶弾に傷く 3 革新軍民の提携 4 井上、団の暗殺と革新の信念 5 五・一五から神兵隊まで 6 右翼と憲兵警察
二 革新のあらしの中の憲兵
1 革新の芽生え 2 青年将校運動 3 桜会の誕生と革新幕僚 4 軍内革新の奔騰と憲兵警察 5 十月事件と国士 6 派閥の発生と皇道派 7 皇道派に奉仕する憲兵首脳 8 怪文書とその真否 9 秦憲兵司令官の功罪 10 思想につかれた憲兵 11 狙われた高野清八郎 12 軍警の対決ゴーストップ事件
三 奔騰するテロリズム
1 二つの派閥とその激化 2 林陸相とその粛軍 3 十一月事件とその摘発 4 デッチあげたものは誰か 5 国体明徴と陸軍 6 激動する合法的維新運動 7 在郷軍人会動く 8 争諫か下剋上か 9 真崎教育総監の追放 10 非公式軍事参議官会議 11 永田軍務局長の弾劾 12 陸軍省の惨劇 13 相沢、憲兵に逮捕せらる 14 新見(大佐)の奇禍と山下(少将)謀略 15 相沢公判始まる 16 治安の焦点相沢公判
IV 戦慄の四日間
一 二・二六事件と憲兵
1 二・二六は予知できなかったか 2 占拠地域に孤立する憲兵 3 軍靴にふみにじられた陸相官邸 4 説得か、激励か 5 討伐態勢なる 6 奉勅命令に屈す 7 岡田首相決死の救出 8 弔問客にまぎれて脱出 9 渡辺邸の襲撃と護衛憲兵
二 二・二六事件余話
1 朝日新聞社襲わる 2 華族会館の襲撃 3 新井勲の戦線離脱 4 秩父宮と二・二六事件 5 北一輝の逮捕 6 野中大尉の自決
三 事件処理と粛軍
1 百五十日の捜査本部 2 事件の渦中に躍った三人の将校 3 西田税と北一輝 4 久原と真崎 5 三井財閥と北一輝 6 粛軍と東京軍法会議 7 磯部、獄中の告発 8 不穏文書違反第一号
四 革新将校の思想系譜
1 青年将校の改造思想と日本国家改造法案 2 桜会と革新幕僚初期の改造思想 3 統制派幕僚の国家改造思想 4 対ソ派と容共派
V 軍の政治驀進
一 陸軍と政治
1 政治は統帥にまさっていた 2 国防論は政治の外 3 満州事変の遂行と政治 4 非常時と革新軍部 5 革新幕僚と革新官僚の提携
二 軍の政治膨張と憲兵の役割
1 政治幕僚の動きと広田組閣への干渉 2 庶政一新と軍部独裁 3 広田内閣を倒すもの 4 六郷橋畔に立つ黒い影 5 声なき声の怪文書 6 陸軍の勢威と憲兵を見る眼
三 見えざる魔の手
1 宇垣内閣流産は陰謀か 2 難航する林の組閣 3 林の苦悩、見えざる魔手 4 林内閣と陸軍の変り身
四 統帥権と皇軍の権威
1 天皇統帥 2 統帥権の独立 3 皇軍意識 4 統帥権絶対とその乱用
VI 支那事変と国内憲兵
一 支那事変の長期拡大と軍の責任
1 宮崎竜介の逮捕 2 事変の拡大者は誰か 3 対支膺懲は国民の声 4 長期戦の責任は軍か政府か
二 近衛内閣と陸軍
1 近衛と陸軍 2 杉山陸相の追放 3 引き抜かれた板垣陸相 4 宇垣外交と軍の猜疑 5 近衛と皇道派
三 戦争と銃後
1 戦時体制への道 2 戦時立法、総動員法なる 3 銃後の守り 4 応召兵の集団上官暴行事件 5 軍事警察の狙い
四 思想の流れ
1 象牙の塔はゆらぐ 2 人民戦線派の弾圧 3 労働運動の行方 4 転向者の一群 5 二・二六以後の右翼
五 満州グループの弾圧
1 ひそかに軍の粛正を企図する 2 石原少将無断帰京す 3 捜査の段階 4 浅原健三と満洲グループ 5 あばかれた陰謀 6 政権奪取五ヵ年計画 7 国外に追放された岡藤吉雄
VII 排英運動の高潮と治安の危機
一 排英の高鳴り
1 枢軸強化と国内の不安動揺 2 山本海軍次官の憲兵護衛 3 まきおこされた排英旋風 4 排英は革新に通ずる 5 浅間丸事件と親英派の打倒
二 青年将校の英国総領事館襲撃未遂事件
1 捜査のいきさつ 2 事件謀議 3 神戸における緊張 4 伊藤構想とその裏づけ 5 剣の威迫と姿なき謀略
VIII 軍ひとときの自粛
一 軍ひとときの自粛
1 畑陸相異例の訓示 2 阿部内閣の失政と食糧危機 3 軍の自粛とは
二 政治と憲兵
1 政治と憲兵 2 憲兵政治の由来 3 国会と憲兵 4 須磨情報部長事件の真相
三 米内内閣と陸軍の確執
1 好ましからざる内閣 2 陸軍との確執 3 陸軍の荒療治
四 憲兵と防諜
1 防諜機関としての憲兵 2 とらえられなかったゾルゲ事件 3 秘密工作と憲兵 4 金庫やぶり 5 東京に潜入したスパイ 6 スパイの逆用 7 日本はスパイに囲まれていた
五 スパイ検挙と防諜上危険団体への弾圧
1 英国系スパイの検挙 2 コックスの死をめぐって 3 日本救世軍の弾圧 4 宗教弾圧のきらい 5 日本聖公会の手入れ
IX 東条陸相の登場と軍の統制
一 第二次近衛内閣と陸軍
1 待望の近衛内閣 2 東条陸相の登場 3 東条と憲兵の因縁 4 近衛内閣と陸軍
二 新体制と右翼
1 近衛新体制と右翼 2 翼賛会の無力化 3 大政翼賛運動と陸軍 4 内外情勢に伴う右翼の動向
三 陸軍の統制と東条、石原の対立
1 軍の統制と統帥幕僚の専断 2 東条人事への疑問 3 東条と石原の対立 4 とばっちりをうけた浅原健三 5 東亜連盟と東条
四 軍事警察の一側面
1 軍中央部将校の非行 2 疑惑の陸軍省 3 軍における汚辱事件など
X 恐怖の憲兵政治
一 東条憲兵の正体
1 憲兵の内部事情 2 四方の独裁なる 3 東条憲兵の実体
二 反東条の動きとその弾圧
1 東条政権の成立とその強化 2 東条政権と右翼の反撥 3 ミッドウェー敗戦と反東条分子の封殺 4 中野正剛の自刃 5 政局安定工作というもの
三 東条政権倒れる
1 東条統帥権を握る 2 東条政権倒れる 3 東条系の余憤と東条憲兵 4 東条首相暗殺の陰謀 5 反東条系への報復 6 憲兵は言論統制には無関係
XI 本土戦場化へ
一 小磯内閣と戦争政治
1 陸相兼任ならず 2 最高戦争指導会議 3 小磯への疑心警戒 4 つぶれた繆斌工作 5 大本営内閣の夢 6 東条憲兵追放の声
二 本土決戦と憲兵
1 本土戦場化へ 2 空襲と憲兵 3 戦争遂行を阻むもの 4 バタヤになった憲兵 5 志気沈滞の軍需省 6 反戦和平の動き 7 吉田茂一派の検挙 8 吉田茂事件の曲解 9 本土決戦と憲兵の大拡張 10 軍の素質低下と軍秩協力
三 近衛上奏と憲兵
1 近衛を狙ったのではない 2 陸軍の赤化説は誣妄 3 近術の迷妄 4 殖田俊吉の対軍観
XII 戦い敗れる
一 終戦の前夜
1 戦争終結の動き 2 鈴木総理の腹 3 聖断下る 4 警備命令の予達 5 近衛師団の兵乱 6 軍の動揺つづく 7 帝都の混乱 8 地方の動揺
二 憲兵の終焉
1 憲兵部隊の動揺 2 厚木進駐を前にして 3 憲兵六十数年の幕閉づ
三 憲兵と戦争犯罪
1 捕獲搭乗員の取扱い 2 捕獲搭乗員の調査始まる 3 さばかれる憲兵(一) 4 さばかれる憲兵(二) 5 東部軍の責任回避
終章 生きている憲兵
1 亡霊への鞭 2 衆口金をとかす 3 生きている憲兵
資料
I 憲兵昭和年表
II 歴代憲兵司令官一覧表
III 平時における憲兵兵力変遷一覧表
IV 内地憲兵隊人員一覧表
V 外地憲兵隊一覧表
VI 憲兵の推移変遷に関する資料
1 峯憲兵司令官の軍状上奏 2 憲兵創設五十年に際して 3 支那事変以降憲兵制度の変遷の概観
VII 憲兵業務に関係ある法令竝に示達事項
其の一法令 1 憲兵令 2 憲兵服務規程(昭17) 3 憲兵服務規程(昭2) 4 憲兵服務細則 5 憲兵高等警察服務規程改正の件 6 憲兵警衛規程 7 憲兵隊教育綱領 8 陸軍省派遣憲兵服務規程 9 補助憲兵、憲兵腕章に関する条規
その二示達事項 1 軍部関係思想要注意者策動に関する報告の件 2 支那事変地より帰還する軍隊及軍人の軍紀風紀等の取締に関する件 3 諜報防止に関する件 4 内地憲兵の防諜業務に関する件 5 工場防衛対策 6 軍属竝召集中の軍人の不在投票等に関する件 7 軍属の翼賛選挙運動干与に関する件 8 憲兵図書、映画検閲執務規程
VIII 左翼思想運動資料
1 日本共産党の檄文ビラなど 2 日本共産党軍事組織図 3 最近における共産党策動と対軍隊戦術 4 最近における共産主義運動の動向 5 人民戦線統一運動に関する考察
IX 軍隊内竝に対軍思想策動概見図
X 警衛に関する資料
1 難波大助大逆事件に関する資料 2 上海に於ける爆弾事件の教訓
XI 思想要注意現役軍人及在郷軍人の概況と軍隊教育の影響
XII 右翼思想運動資料
1 村中孝次の謄写通信 2 第三十七期諸兄、村中孝次の講話案骨子 3 全皇軍青年将校に檄す 4 昭和の安政大獄 5 永田伏誅の真相 6 陸海軍青年将校に檄す
XIII 右翼運動者の軍部に対する策動に就て(平野少佐)
XIV 二・二六事件 憲兵隊訊問調書
XV 訓示、講話
1 憲兵司令官秦中将講話 2 田代憲兵司令官の口演 3 相沢中佐の公判に対する右翼団体の動静に関する件報告「通牒」(岩佐禄郎) 4 昭和十二年六月憲兵隊長会同席上に於ける陸軍大臣訓示(寺内寿一) 5 加藤少将の「長期戦下の思想防衛」と題する全国口演
あとがき