みすず書房

今世紀20年代から30年代のヨーロッパを包みこんだ帝国主義、ファシズムの跳梁にあくことのない批判と戦いを展開したロマン・ロランの大河小説『魅せられたる魂』もいよいよフィナーレを迎える。
大学生マルク・リヴィエールは食料品店の守衛、ボーイ、給仕、切符係等の職を転々とする。また、彼のかつての仲間シモン・ブシャールはまっとうな仕事で生きてゆくことに絶望し、ギャングになって断頭台の露と消えてゆく。一方、イタリアのファシスト、レオーネ・ジャールやフランスの民族主義者チモンは、さまざまな民衆の死や文化の破滅を滋養に、巧妙な弁舌や振舞いで、ファシズム思想と大資本の癒着・結託をはかり、実現させる。これは、この小説の発表直後に、ファシズム・ドイツおよびイタリアの、スペイン共和国への軍事介入の姿をとったのである。ファシズムとは戦争であった。その暴圧に抗した誠実で勇敢なヒロイン、アンネットの感動的な生き方は、読む者の手に汗を握らせ、胸の高まりを覚えずにはいられないであろう。

〈この作に表現された人生のなかに、私たちは、自ら知り、自ら経験した生の現実を再発見するばかりでなく、私たちの狭い、かぎられた範囲の環境と、微少な生活力と、単調な生涯においては、到底もつ可能性のない広さと、深さと、多様性を、この物語のなかに発見し、感じ、苦しみ、よろこび、悩み——つまりそれらを自身で生きる機会があたえられる。私たちの現実には到底ゆるされない人生の「ゆたかさ」が、私たちの生の外なるものとしてではなく、未発のもの、内在するもの、潜在するものとして、あこがれとして、夢として、力としてあたえられる。〉
(訳者のことば)

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(みすず書房では『ロマン・ロラン全集』を、第一次(全53巻、1947年1月—1954年10月)、第二次(全35巻、1958年11月—1966年8月)、第三次(全43巻、1979年11月—1985年12月)の三回にわたって刊行してきました。本書は、その第三次『ロマン・ロラン全集』の第5巻(1979年11月10日発行)を、2013年、オンデマンド版で復刊するものです。ここにご紹介するカバー画像は、オンデマンド版のものです)

目次

四 予告する者 II 出産
第一部 闘い/第二部 フロレンスの五月/第三部 Via Sacra 聖なる道