みすず書房

地球の子供たち

人間はみな〈きょうだい〉か?

CHILDREN OF THE EARTH

判型 A5判
頁数 656頁
定価 11,000円 (本体:10,000円)
ISBN 978-4-622-07007-8
Cコード C3010
発行日 2002年12月20日
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地球の子供たち

すべての人間は、きょうだいである——このモットーは従来、国家の統合と宗教上の普遍救済説にとって、政治的意義を有していた。しかし、文字通りの親族関係をこえて、すべての人間がきょうだいであるなら、そこにはつねに近親相姦にまつわる問題や、自分の子供でありかつ国家の子供であるという二重性、さらに人間と非人間=動物との境界の問題が生まれてくる。その結果、他者とは何かという排除の論理が登場する。

一方〈ある人間はきょうだいであり、ある者は他者である〉という個別(排他)主義的な考えからは〈寛容〉の精神が誕生した。一見〈寛容〉にみえる普遍主義がいかに〈不寛容〉に逆転し、〈不寛容〉にみえる個別主義がどうして〈寛容〉になりうるのか。

本書は、ユダヤ・キリスト教の起源からスペインのマラーノ、エリザベス期の罪のあり方やきょうだい関係の終焉、ラシーヌやルソーの時代の孤児の境遇、現在のケベックにみられる二言語使用やペット問題までを縦横に論じる。群を抜いた著者の博識と思考から共生と排除のあり方を模索した、驚嘆の書である。

目次


1 ソロモンの判決
——または、男きょうだいと他者をめぐる研究序説(アメリカの場合)
誰が誰かを、知ること/シャム双生児と取替え子/近親相姦と庶子/男きょうだい対男きょうだい/親族関係と種族性
2 共存から異教黙認へ
——または、スペインのマラーノ(豚野郎)
コンヴィヴェンキアの終焉/牡牛座生まれの国家/諸宗教にとってのアムステルダム的な都市/寛容姿勢
3 二枚舌
——または、ケベックでたどられることのなかった道
中間の立場に対抗する両陣営/時代の兆候/フォルクスヴァーゲン・ブルース/ケベックの二言語使用広告(1974年)
4 〈聖母の眠り〉から〈国家〉へ
——または、イングランドの罪深き魂
序/罪深き魂の鏡/近親相姦、庶出、そして国家の誕生/肉的感染/王女エリザベスについての思索/キリストの妻/ナバラの王妃マルグリート/普遍主義修道会の社会人類学/自由思想と自由/〈きょうだい愛〉対〈両親への尊敬〉/ローマのウェスタの処女とブリテンの女帝/国家的きょうだい関係
5 目隠し鬼
——または、『ハムレット』ときょうだい関係の終焉
序/きょうだい関係の形象/父の地位の不確定性/〈女きょうだいと〉女きょうだい/母国語/ローマにおける近親相姦と母殺し/劇中劇/偽善と演技/破廉恥行為/キリスト教と禁欲/修道女から誰でもない者へ
6 国家の子供たち
——または、フランス、孤児の境遇、そしてジャン・ラシーヌ
近親相姦と閉所恐怖症//ローマとキリスト教世界/国家の子供たち
7 ファミリー・ペット
——または、人間と動物
序/ペットの種族関係と親族関係/美女と野獣/パシパエの寓話/親切(種族関係)とキリスト教世界/結論
8 部族的男きょうだい関係と普遍的他者関係
——または、「わたしたちの敵の面前で」
害を与える敵と敵対者/世界間の戦争/両性の戦い/ユダヤ教とキリスト教/すべての者とすべての者との戦い
結論——異なほど共通の親族
原注
訳者あとがき
文献
索引