みすず書房

はるか宇宙の果てをさぐるにせよ、微細な素粒子を扱うにせよ、物理世界の理解を目ざして探求を始めるとき、私たちは必ず「数学」という言語を自明の基礎として用いる。しかし、数学へのこのような信頼には根拠があるのだろうか。数学とはいったい何であり、なぜうまく働くのだろうか。

『万物理論』の著者バローによるこの問いかけから、読者は数学の起源、意味、謎をめぐる魅惑的な旅に引き込まれることになる。古代の計数文化からコンピュータへ、ピュタゴラスからヒルベルト、ゲーデルへ。立場を異にする数学者たちの悲喜劇を交え、練達の道案内が展開されていく。

数学とは数学者によって「発見」されるような真理なのか、それとも実際上の必要に迫られて人間が発明した人工物にすぎないのか。数学とは一種の宗教なのか。プラトン主義に拠るならば「π」はまさに天空にある。苦闘の歴史を刻んできた20世紀数学。現在、次なる可能性を見守る地点にわれわれは立っている。