みすず書房

やわらかく、壊れる

都市の滅び方について

判型 四六判
頁数 240頁
定価 2,750円 (本体:2,500円)
ISBN 978-4-622-07031-3
Cコード C0095
発行日 2003年3月5日
備考 現在品切
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やわらかく、壊れる

1983年、中野刑務所。「わたしは解体工事が始まった直後から、工事現場にしばしば出かけた。一歩足を踏み入れたときから、廃墟になる寸前のこの監獄の美しさに目を奪われたのだ。8ミリカメラを回して記録し、最後の獄舎が砂粒になるまでを見届けようと思った。現場から帰ると、そのたびに詩を書いた」。

1992年、臨海副都心。「わたしはここへ行くたびに思う。この町が完成したあと、何かが起こって滅びることがあったなら、もう一度今あるような姿に戻るのだ、と。つまり、ここで今見ることができるのは、未来の都市の廃墟なのだ」。

1995年、神戸。「重要なのは、建物はいつかは必ず壊れる、ということ。それならば、いかに被害を少なくして倒れるか、ということが、未来の建物の設計思想となるはずだ。……建物も都市も、いかに、やわらかく壊れることができるか。阪神大震災が教えてくれた教訓は、このことに尽きる」。

記憶=地霊を呼び起こし、未来=廃墟を重ね合わせつつ、ノマドの眼で世紀末東京をつぶさに観察。監獄の解体現場に通い、震災直後の神戸、湾岸戦争後のアラビア湾に赴く。第54回読売文学賞受賞作『アジア海道紀行』につづく詩人のしなやかな都市批評。

目次

森の中の未来都市

〈都市の声、都市の耳〉
ストリート・キャッツ/すべては猫から始まった/東京野良猫ストーリー/ながめを何に/都市の中の芭蕉/川の女神とダンボールの家/隅田川 よそ者の楽しみ方/祭ばやしの源流・葛西囃子/20世紀末東京日記/浅草日記——日々是観光の地の日常/初鰹文化論/都市の声、都市の耳

〈東京1923〉
都市の鼓膜/悪魔の伯父さん——都市の秋

〈かつて日本に東洋一の監獄があった〉

中野刑務所の門/監獄の誕生/監獄の壁と言葉——後藤慶二と中野重治

〈神戸1991〉
いま中原中也の魅力/再出発する場所/いかに、やわらかく壊れるか/木と土と水と

〈廃墟は世界を覆う〉
廃墟はつづく/バーチャル・リアリティの井戸に溺れて

〈断食月の油採り〉
「ひしゃく隊」奮戦記/湾岸戦争一年後/断食月の油採り/生死の境目に立つ島

援助される側の論理——あとがきにかえて