みすず書房

「アラゴンに『手の内を見せる』という一冊があった。いつかその真似の真似でもいいから、ちょっとした試みをやってみたいと考えていた。タイトルは頂戴して『持札公開』。例えば、ナンセンス・テールとは何か。ファンタジーとは何か。絵本のテキストはどう書くのか。少年少女のラブ・ストーリーとは? 新しい『偉人伝』の可能性は?……各国各様の実例をあげ、自分なりにそれぞれの方法をまとめたうえ、自分でも新作を一つずつ書く。それはもう地図を読めずに道に迷うどころか、自分でつくった地図を本物に変えるような力業になるかもしれない。」(「はじめに」より)

この卓抜なアイディアは、希代の名編集者・今江祥智のもの。大石真『チョコレート戦争』、倉本聰『北の国から』、江國香織、川島誠まで、次々にめざましい書き手を子供の本の世界へ招いては、子供の本の世界を豊かにしてきた。
そして、この離れ業をやってのけたのは、長距離作家・今江祥智の底力。この国の創作児童文学が生まれてからきょうまでずっと、いつもトップをきって走りつづける。
「子供の本の16の書き方」伝授。ケストナーから藤沢周平、庄野潤三からプレヴェールへ、縦横自在な読書ノートのなかに語られる創作技法。異才をかたちにした異色のエッセイ=文学論。

目次

はじめに

1 物語のはじまり、はじめての物語
  (アーノルド・ローベル『ふたりはともだち』ほか)

2 ナンセンス・ナンセンス
  (二宮由紀子『うっかりウサギのう〜んと長かった1日』ほか)

3 ファンタジー裏通り
  (森山京『12のつきのちいさなおはなし』ほか)

4 ボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー
  (高田桂子『うさぎ月』ほか)

5 動物噺など
  (川島誠『しろいくまとくすのき』ほか)

6 寓話の力
  (ライナー・チムニク『セーヌの釣りびとヨナス』ほか)

7 絵本劇場へ、ようこそ
  (ガブリエル・バンサン『おてがみです』/長新太『どろにんげん』ほか)

8 対話篇
  (工藤直子『てつがくのライオン』ほか)

9 幸福論への一瞥——自伝のはなし
  (ロアルド・ダール『少年』ほか)

10 「まげもの」の愉しみ
  (藤沢周平『用心棒日月抄』ほか)

11 詩人たちのまなざし
  (『プレヴェール詩集』/『まど・みちお全詩集』ほか)

12 偉人伝の話
  (寺村輝夫『アフリカのシュヴァイツァー』ほか)

13 長篇作法
  (庄野潤三『ザボンの花』ほか)

14 ピカレスクの誘惑
  (ジャニ・ハウカー『はしけのアナグマ』ほか)

15 期待の新人
  (佐野洋子『だってだってのおばあさん』/江國香織『つめたいよるに』ほか)

16 明日の話
  (堀内誠一『ぼくの絵本美術館』ほか)

* ( )内はそれぞれの章でとりあげられる作品です

担当編集者からひとこと

『子供の本 持札公開』aは「理論篇」です。作品論をとおして16の書き方を伝授するこの「理論篇」の巻と一対で、同日に出版された「実作篇」が別にあります(『子供の本 持札公開』b)。そちらは、「理論篇」の各章で出された方法的課題に、作家・今江祥智みずからが答えた新作集。
「期待の新人」まで含めて――そこではつまり、デビューしたての新人になって――、みずから課した16の方法で、みずから新作を書く。こんな果敢な挑戦をつづける作家がそうそうあるでしょうか。