みすず書房

新=東西文学論

批評と研究の狭間で

判型 A5判
頁数 352頁
定価 6,600円 (本体:6,000円)
ISBN 978-4-622-07073-3
Cコード C1095
発行日 2003年12月18日
備考 現在品切
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新=東西文学論

好評をもって読書人に迎えられた『きまぐれな読書』につづく、読み巧者・富士川義之による第二冊目である。今回は、副題にもあるとおり、ちょっと読みごたえのある論考をも収めている。なかでも、エリオットの『荒地』の読解やラスキンによるターナーの絵の分析を紹介・批評した文章は圧巻である。また、カズオ・イシグロやアンジェラ・カーターの文学への手引きは過不足のない出来映えである。19世紀から現代の最前線にいたる豊かな英米文学の見取り図をこれほどみごとに描けるのは、いまこの著者をおいてはいないだろう。本巻はこれに見合うかたちで、著者が偏愛する日本の作家たちをめぐるエッセイ群も第二部に収めている。すなわち、漱石や百訷・中島敦から吉田健一・澁澤龍彦にいたる作家たちの魅力を存分に語った文章が並んでいる。読書をたんなる消費ではなく、豊かな経験とする読書人には恰好の一冊であろう。

著者からひとこと

イギリス・ロマン派の詩と散文における風景表象の問題、ターナーの神話的風景画を分析しながら、「マモンの神」(「富の邪神」)に仕える現代人を鋭く批判するラスキン、スウィンバーンやバーン=ジョーンズからワイルドやビアズリーにいたる芸術家たちが注目したタンホイザー伝説、錯綜した意識の発する声から自分の声の発見ということのほうへと展開する長編詩として見る『荒地』論、さらには「語り直された童話——アンジェラ・カーター」や「過去は外国である——カズオ・イシグロの英国性」など、第1部は、多種多様な考察を提示しています。

さらに第2部では、漱石・百訷・中島敦・吉田健一・篠田一士・澁澤龍彦など、わたしの偏愛する日本の文学者たちに関するエッセイを収めています。幻想作家漱石、百訷の女たち、中島敦の文体論、「明るい憂い——吉田健一」、「所有の王国のスタイリスト——澁澤龍彦」などです。 わたしは批評か研究かという二者択一ではなく、批評と研究の狭間で仕事をするという姿勢を長い間に自ずと身につけました。性分に合っていたからです。本書の副題を「批評と研究の狭間で」としたゆえんです。そのような姿勢に立って英米及び日本の文学を読みといた本書を、ご愛読いただければ望外の幸せです。(2004年1月 富士川義之)