みすず書房

「20世紀のドイツ文学は、激動する政治と切り結んで闘い、あるいは巻き込まれてもがきつつ、多大な遺産を築き上げた。(…)そのなかで、自然を標榜する一連の詩人たちが、異様に歪んだ時代を冷静な市民感覚で生きぬいていた軌跡が、歴史の埃をぬぐってみると、しだいに見えてくるように思われる。この詩人たちにとって、自然はまず社会からの避難所の意味をもつ。しかしそればかりではない。自然は人間が身を守る盾ともなり、自分の境遇を写す鏡ともなり、間接的に社会を批判するさいの隠れ蓑ともなり、人権意識を干上がらせないための養分ともなる。」(本書「序説」より)

ゲーテからリルケにいたる自然詩の伝統を受け継ぎながらも、現代的な自然詩を開拓し、ナチ時代には国内亡命の途を選んだオスカー・レルケ、ヴィルヘルム・レーマンをはじめ、東西ドイツに分断された冷戦時代の閉塞的な状況下に、歴史を見直すよすがを自然に求めたペーター・フーヘル、ヨハネス・ボブロフスキー、ザーラ・キルシュ、パウル・ツェラーン、ギュンター・アイヒからエコ自然詩へと、激動の20世紀を通じて今日まで脈々と流れる詩的系譜を掘り起こす、画期的な新研究。