みすず書房

シナプスが人格をつくる

脳細胞から自己の総体へ

SYNAPTIC SELF

判型 四六判
頁数 576頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-07110-5
Cコード C0045
発行日 2004年10月25日
備考 現在品切
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シナプスが人格をつくる

人格の構造はシナプスのレベルからどの程度理解されているのか?本書はこの疑問に答えようという壮大な試みである。著者が自身の大胆な仮説も導入してまとめあげる人格のシナプスメカニズムはまだ素描ではあるが、読者は読後に人格の構造を眼前に見るような手ごたえを感じるだろう。

著者の徹底して還元主義的なアプローチからは、意識的な自己以上に、自己の無意識的な部分が人間の精神活動・行動とその個性を生み出す構造が見えてくる。また、シナプスが脳内で局所的にも大域的にも、いかに可塑的であるかを本書は強調する。「遺伝」と「経験」は相互に影響するが、脳が生み出す人格の個性は、遺伝以上に外的あるいは内的経験がシナプスの可塑性に作用することで形作られるのだ。
さらに、自己という多次元構造の中で知・情・意のバランスがいかにダイナミックに変化しうるかについては、著者自身が多年にわたる情動メカニズムの研究から得た洞察を随所で明かしている。

近年の神経科学の膨大な研究成果と、それ以上にたくさんの新たな謎を提示する本書は、心理学・精神医学・認知科学など人格/自己を探求する他分野へも無尽の示唆を与えるだろう。また、脳という偉大なパズルのスマートな解法を競う神経科学者たちの世界を垣間見られることも、本書の魅力のひとつである。

目次

第一章 大きな問題
第二章 自己を求めて
第三章 いちばんわけのわからない機械装置
第四章 脳の構築
第五章 時の中の冒険
第六章 小さな変化
第七章 心の三部作
第八章 情——『エモーショナル・ブレイン』再訪
第九章 意——ロスト・ワールド
第十章 シナプスの病気
第十一章 あなたは何者なのか

謝辞
監修者あとがき
原注
参考文献リスト
文献索引
索引

編集者からひとこと

〈筋金入りの神経科学者〉の手になる脳科学の本を読みたい人へ、この一冊。この分野の玄人筋にとっては、巻末付録の詳細な注釈や文献リストも情報源として重宝だそうです。
     *
人格は、自分で意識できる部分と無意識の部分の両方を含む、意識より大きな枠組みだ。それは例えばこんなことからもうかがえる。記憶には「意識できる記憶」と「無意識の記憶」があるが、脳内の「意識できる記憶」を担う部分がアルツハイマー病によって破壊され、深刻な記憶障害が起こっても、人格は失われない。病気が進んで脳の損傷が無意識の部分に及んではじめて、いわゆる人格の崩壊が起こるという。
本書はこの「人格」の生じる仕組みを、地図を見るように具体的に感じさせてくれる本だ。著者ルドゥーは神経科学者、しかも脳細胞のつながりを一筋単位でたどるような、堅実だが果てしない、一面愚直とも思える手法によって、人格の本質に迫る発見をものしてきた人だ。人格の研究と聞くと、また錬金術かと身構えそうになるが、ルドゥーのやり方は厳密で明快だ。(1)脳細胞の性質以外、何ものも前提としない。(2)主観のかかわるおそれのない神経回路から探る。(3)すでによくわかっている、脳細胞や神経回路の記憶の機能を手がかりに使う。実にシンプル。そして徹底して還元主義的である。ルドゥーの研究のエッセンスをまとめた本書が、地に足のついた洞察の宝庫であるのはそのためだ。本書がさまざまな分野の読者にひらめきをもたらすことになると嬉しい。谷垣暁美氏による翻訳も一級品だ。

書評情報

茂木健一郎(科学者)
日本経済新聞2004年11月28日
最近、脳に関する本は数多く出版されているが、その中でも本書は科学的にもっとも優れたものの一つである。著者のルドゥーは感情の脳メカニズム研究の世界的権威である。監修者は嗅覚研究の第一人者である。訳文も大変読みやすい。
ルドゥーはユニークなアプローチをとる。意識そのものを扱うよりも、「自己」が作られるメカニズムを説明してみようというのである。意識と自己は似ているようで、実はかなりのニュアンスの違いがある。その違いがどこにあるかを理解するだけでも、本書を読む価値があると言えよう。……感情の研究は、脳科学の分野の中でも近年最も急速な発展が見られる分野である。ホットな問題を、最適任者が論じているわけである。……事前知識がなくても理解できるように、丁寧に説明されていることはもちろんである。大学での教科書として十分使えるほど、内容は充実している。……科学離れが喧伝されている昨今だが、本物の魅力は必ず伝わる。

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