みすず書房

丸山眞男の最初の弟子として、1947年の第一回丸山ゼミに参加して以来、つねに丸山のそばで距離をとりつつみずからの政治学を実践してきた著者が、はじめて纏める論集である。

他者を理解するとはどういうことか——イラク戦争はじめ9・11以後の世界を生きるわれわれにとっての〈他者感覚〉の重要性を訴える書き下ろし「丸山眞男との未完の対話を持続するために」、60年代前半から、初期には藤田省三ともども丸山の死の直前まで一貫したテーマの下につづけてきた〈正統と異端〉研究会の詳細を描いた「『正統と異端』はなぜ未完に終ったか」、〈市民社会〉と〈国民国家〉を論じた丸山への問題提起の論文「丸山眞男と市民社会」、丸山没後にまとめた「日本政治思想史学における丸山眞男の位置」を中心に、その今日的意味を思考する。

その他、「丸山眞男と軍隊体験」「丸山眞男と日本の政治学」「『戦争責任論の盲点』の一背景」など全13編。近くにいた人間ならではの具体的な証言と研究者としての距離感がうまくブレンドされた、他の人には及ばない丸山の思想と人の姿を伝える。

目次

I 緊密な接触の体験から

丸山眞男との未完の対話を持続するために——「他者感覚」の意味を中心に
はじめに/個人と社会をめぐる丸山思想の展開/困難な社会状況への思想的対応/「原型」「古層」「執拗低音」とその後/残された二つの課題/最後の発言としての「他者感覚」とその背景/「他者感覚」の用語例/無限の課題としての「他者感覚」と「永久革命」としての民主主義/平和問題と「他者感覚」/「他者感覚」が個人を焦点とする積極的意味

『正統と異端』はなぜ未完に終ったか
はじめに
1 発端の問題意識
2 状況の変化と重点の移動
3 最後の努力と未完のままの終結
むすび——私にとっての「正統と異端」研究会の持った意味

II 多様な視角から

日本政治思想史学における丸山眞男の位置——「緊張」という視角を中心として
はじめに——「緊張」という視角について
1 歴史と理論
2 歴史と比較
3 「観念形態」の諸層
4 政治的領域と非政治的領域
むすび——「未完のプロジェクト」としての丸山眞男の日本政治思想史

丸山眞男と日本の政治学
流行に警告/変らぬ政治へのまなざし/体験から構成した批判精神

丸山眞男と軍隊体験
この資料をどうみるか/船舶司令部参謀部情報班の特殊性/帝国陸軍の枠/三つの真空地帯」体験の中の軍隊体験/戦争体験とその後の丸山の研究

戦争体験の思想化と平和論

III 「市民社会」と「国民国家」

丸山眞男と市民社会
1 丸山眞男の丸山的理解について
2 なぜ「市民社会」という概念をほとんど使わなかったのか
3 大衆社会の矛盾を克服しようとした方途
4 丸山にとって「国民国家」とは
5 残された課題
付論 市民社会という分析枠組に関する私見

IV 回想と解釈

「戦争責任論の盲点」の一背景

遺稿となった龍渓論

丸山思想をどう学ぶか

『丸山眞男集』における『「文明論之概略」を読む』の位置

丸山思想の今日的意味

あとがき
人名索引