みすず書房

社会生物学論争史 2

誰もが真理を擁護していた

DEFENDERS OF THE TRUTH

判型 A5判
頁数 440頁
定価 6,380円 (本体:5,800円)
ISBN 978-4-622-07132-7
Cコード C1040
発行日 2005年2月22日
備考 現在品切
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社会生物学論争史 2

ウィルソンと彼の社会生物学に向けられた批判の多くは、たしかに公正ではなかった。しかし、社会生物学論争が、よく言われてきたように、ただの政治的動機による〈氏か育ちか〉論争でもないことは、本書に明らかである。科学者たちは、自分たちの科学について、真剣に戦っていたように見える——これは、四半世紀の道徳劇か?

科学の園のプランター対ウィーダー、善い科学の植えつけに励む科学者と、悪い科学の摘み取りに熱心な科学者の姿が照らし出される。ナチュラリスト対実験家、モデル化と実在主義など、さまざまな構図が影をおとす。自由意志と決定論、科学者の社会的責任、科学者共同体および社会からの認知を求める競争などの観点も導入される。そして、対立の核心へと著者の分析は迫る。

〈文脈、文脈、みんないつも文脈についてしゃべりたがる!〉インタヴューのこんな肉声も織り込みながら、初期にはIQ論争と、近年ではサイエンス・ウォーズとのあいだにある連続性を保ちながら進展した、長く苛烈な科学論争を本書は物語る。社会生物学論争の全容に初めて光があてられたのである。
全2巻

目次

第二部 社会生物学論争を読み解く
10 批判者たちの心のうち
連結した論理と確かさの追求/チョムスキーの異議申し立て/「プラトンの高貴な嘘」——批判者の論法を解く手がかり/真実は露見する——道徳的解釈を通してのテクスト操作/彼はそう言ったんだ!——言葉の力

11 科学の庭園における攻防
社会のなかの科学をめぐる伝統的な見方と批判的な見方/何をなすべきか——科学者の責任/事実への怖れ/科学の道徳性/行動遺伝学をめぐる闘い/米国学界のネオルイセンコ主義?

12 社会生物学論争のなかのハムレットたち
感謝されない連結切り離し屋——ピーター・メダワー/両陣営に片足ずつ——メイナード・スミスとベイトソンの調停努力/論争に参加しなかった左翼の声——サルヴァドール・ルリア

13 伝統の衝突
気心を通じ合うナチュラリストと批判的な実験主義者/テクストと真実/二分された学界と二つの真理の世界

14 科学の本性についての対立する見方
「真の因果関係」対モデルと計測/「正しい」知能研究の正当性/「不自然な科学」としての社会生物学とIQ研究/全体論、還元主義、マルクス主義/定義ゲームとしての還元主義、あるいは目くそを笑う鼻くそ/ウィルソンがワトソンでなかった理由

15 論争につけこむ
象徴的資本としての道徳的認知/社会生物学論争における「争点」をめぐっての闘い/最適化戦略家としての科学者

第三部 科学をめぐる闘いの文化的な意味
16 社会生物学者とその敵——21年後の棚卸し
進化的パラダイムの台頭/変わりゆく環境のなかで進化するウィルソン/社会生物学論争における道徳的な勝者/ウィルソン流の社会生物学——一つの評価/人間社会生物学との折り合い/狙いをはずした撃ち合い——グールドとドーキンスの長々しいデュエット/現代総合説の擁護者たち——進化はなぜ、どのようにして起こるか/行動の統合された研究に向けて

17 論争による真実——社会生物学論争とサイエンス・ウォーズ
「反科学」に戦いを挑む科学の擁護者たち/サイエンス・ウォーズの政治学/反社会生物学と反科学/批判の連続性と不連続性

18 啓蒙主義的探求の解釈
コンシリエンス——新しいセントラル・ドグマ/コンシリエンスで覆い隠せる(コンシール)か——社会科学と芸術/啓蒙主義とハイパー啓蒙主義の探求/汝自身を知れ——長期的な啓蒙主義の目標

19 科学的真理と道徳的真理の緊張関係
進化生物学——科学と価値のあいだ/生物学について真理を語る/真理とそれがもたらす結果

20 魂を賭けた戦い——そして科学の命に懸けて
自由意志・決定論・罪着せ/新たな本質主義と新たな実存主義の出会い/神は必要なのか?/科学を引き綱につなぎとめる——情動と道徳的懸念の重要性

訳者あとがき
参考文献

編集者からひとこと

三幕のオペラに見立てて語りおろす社会生物学論争の四半世紀。三中信宏氏(『生物科学』2006年第2号)、松原洋子氏(『思想』2005年10月号)、大谷卓史氏(BIONICS、2005年10月号)、林真理氏(『図書新聞』2005年10月15日号)、青野透氏(『日経サイエンス』2005年8月号)、渡部潤一氏(『読売新聞』2005年4月24日号)、渡辺政隆氏(『朝日新聞』2005年4月10日号)ほか書評多数。

E. O. ウィルソン『社会生物学』の邦訳は、1300ページをこす大冊で新思索社から出ています。