みすず書房

第一書評集『歴史家の本棚』から数えて十年、旺盛な読書力と独特の時空認識をそなえた〈ラディカル・ヒストリアン〉による書物をめぐる待望のエッセイ集である。

世紀の変わり目をまたいで、この世界は大きな変化を遂げた。湾岸戦争からイラク戦争へ、かつてとは意を異にする「帝国」が強大な力をふるい、イスラーム諸国をめぐる状況は行く先が見えない。そのいっぽうで、アジアにおける日本の存在がますます重要なものになり、国内では歴史と教育の問題が先鋭化している。

この本において披見される数多の本を通覧するとき、それぞれの著作がどこに位置するのかを的確にとらえる歴史家の案内によって、われわれは世界を知る読書のありようを地図のように感得できるだろう。

しかもなお本書の根底には、本を読むよろこびが感じられる。ときに読書を「死にかかった技術」と思いながらも、読書家に語りかける音色は、一貫して響いている。