みすず書房

抗うつ薬の功罪

SSRI論争と訴訟

LET THEM EAT PROZAC

判型 A5判 タテ210mm×ヨコ148mm
頁数 464頁
定価 4,620円 (本体:4,200円)
ISBN 978-4-622-07149-5
Cコード C1047
発行日 2005年8月 3日
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抗うつ薬の功罪

全世界で年に数兆円を売り上げている抗うつ薬SSRI(プロザック、パキシルなど)。本書はSSRIの、うつ病患者の自殺衝動を強めるというショッキングな副作用に焦点をあてる。この副作用のリスクは1990年に最初に研究論文のかたちで報告されたが、2004年以降に米・英・EUの薬事監督庁が製品への警告表示を指導するなどの対応をとりはじめるまで、産官学にまたがる関連業界から実質的に黙殺されつづけた。
副作用のリスクを認めたうえで、ある種の鎮静剤を併用したり、服用量を減らすことでリスクを最小限に抑えながら本来の効果を得ることができたにもかかわらず、なぜリスクの存在自体が否定されなければならなかったのか。
著者は産官学すべてのインサイダーを経験した無二の証人としてこのスキャンダルを報告する。ビッグ・サイエンス化する医薬品の開発および許認可プロセスの現状と、そこに複雑にからむ産官学の利害構造など、副作用の過小評価につながる数々の誘因のディテールがきわめて具体的に語られる。
SSRIの功罪の多角的分析や訴訟の詳細などのミクロな情報と、生物学的医療の時代の死角を照射するマクロな視点との、二つの次元で核心を語る貴重な証言である。また、精神医療の未来を占う側面もある。実際、原書の刊行後に、SSRIの副作用や臨床試験データの扱いに関して、主流の見解は著者の主張する方向へ大きくシフトした。

目次

はしがき──同じ雷雲の下で
ゲームのルール

序章──プロザック以前
プロザック以前の「神経の不調」/抗うつ薬の時代/セロトニンとうつ病/プロザックの予兆/SSRIの起源/ツェルミド──最初のSSRI/インダルピンへの批判から精神医学そのものへの批判へ/ルボックスのマーケティング/セレクサとゾロフト──SSRIどうしの兄弟喧嘩/パキシルと依存性という亡霊/プロザック/プロザックとFDA/市場参入

第1章 テイクワン
タイチャー、グロード、コール/深まる謎/リリー社への通知/論争の表面化/リリー社のコンサルタント/帝国の逆襲/そのころアメリカでは/膠着状態

第2章 ケンタッキーで起こったこと
公判の準備/フェントレスその他対リリー社訴訟事件/その間の出来事/ジック論文/自家栽培のアカシジア/深みにはまる前夜

第3章 初めての証言録取
ウィリアム・フォーサイスの物語/初めて証言録取を受ける/一般的な因果関係/ヒーリー、欠格者とされるか?

第4章 市場の力
抗うつ薬どうしの違い/ある新薬の売り出し/影の学界/患者グループ/コミュニケーション代理店による代作/現代の医学の方
向(カレント・メディカル・ディレクションズ)/精神薬理学産業見本市/商売か科学か/SASSについてもう一度考えてみよう

第5章 太平洋断層地帯
公判始まる/証言台に立つ/善玉と悪玉/されど裁判は続く/評決

第6章 カフカの城
『英国医学雑誌』向きの問題/BMJを超えて/ふたたびBMJへ/何人死んだだろうか?

第7章 世紀末の実験
研究の準備/第一印象──「元気以上」/ブラインドをとりはらうと/自殺傾向/尾を引く影響/物語に加えられたもうひとひねり/新たな問題

第8章 話はますますややこしく
子どもの自殺──ミラー事件/プロザックの特許/利害の衝突/ボスの中のボス/監督官庁と友人たち/トウビン対スミスクライン訴訟事件/トロント・スキャンダル/大詰め/トロントの学界に自由はあるか?

第9章 訴訟社会の医事紛争
サリドマイド訴訟とプロザック訴訟/疫学の復活/警告を怠ること/プロザック、パキシル、ゾロフトの大渦巻きの中へ/企業は一線を越える/誰がいつ、何を知っていたか/ヴィッカリー、一度はすっからかんに

第10章 「プロザックを食べたらいいじゃないの」
無垢な時代の終焉/便宜上の結婚/タバコから薬へ/セロトニン文化/個人のグローバル化/犬は吠えるが、キャラバンは進む/解決策を探る手順/市販薬化?──一つの思考実験/精神科医(シュリンク)/データは誰のもの?/善意の共謀/9. 11/フォーサイスからトロントへ

結びの言葉──逸話的な死

編集者からひとこと

いまや抗うつ薬や抗不安薬のユーザー(治療者としてあるいは患者として)の必読書として高い評価をいただいている本です。しかも、精神科薬物の現状だけでなく、将来までを見通した問題提起になっています。騙されたと思って一章の途中まで読んでもらえれば、あとは最後まで「巻を置くあたわず」という読書体験になるだろうこと請け合い。著者の学者生命も巻き込んだ実体験にもとづくレポートならではの説得力があり、本書の記述のもとになっている情報の出所はすべて(執拗なほどに)巻末収録の注釈に開示されています。

書評情報

江口重幸
精神医学2006年2月号
20世紀末から21世紀はじめの精神医学をめぐるシーンを描いた書物を一冊だけ薦めるとしたら、私は迷わず本書を選ぶだろう。……私のようにSSRIを処方している臨床家が読むと、自分の臨床の地盤が大きく揺らぐ思いを経験する。精神科薬とその適応とは何なのか、私たちの臨床が今日の市場社会の中でどのような意味をもつのか、それはどういう知の「構造」を背景にして成立しているのか、等々を痛切に考えさせられる。……精神薬理学の領域からこうした精神医学全体を批判的に見つめなおす書物が出現することをかつて誰が予想しただろうか。翻訳もすばらしく、注のひとつひとつも十分に読ませる。
金森修
週刊読書人2005年9月30日
まずなによりも、医師、それに薬理関係の人たちに冷静に読んでもらいたい。そして本書の主張がもつ科学性の評価をし、それが一定の科学性をもつと思われるなら、それに即した処方に変える、または患者に、その可能性の事実を告げるなどの対処をしてほしい。また、もし可能なら、患者の人たちにも読んでほしい。服用初期に自殺したいという気持ちが起きるかもしれないという知識は、それ自体が自殺実行を食い止める重要な知恵になる。それにもっといえば、鬱病患者の急増と薬理産業との関わりを外在的に切り取る社会学者にも、それにそもそも精神病理を薬剤で統制することの意味を考察する哲学者にも、読んで欲しい。

関連リンク

ヒーリー・インタビュー「双極性障害とそのバイオミソロジー」

月刊「みすず」2013年3月号に掲載されたデイヴィッド・ヒーリー「双極性障害とそのバイオミソロジー——バイオバブルが人々を治療に駆り立てる時代」(聞き手=クリストファー・レーン)の全文をお読みになれます