みすず書房

人はどんな土地にも住む権利がある。しかし実際には、たまたまその土地と遭遇したり、あるいはたまたま代々住んできたにすぎなかったりする。しかし、それはその人にとってただの空間(スペース)ではない。住むことによって、そこはかけがえのない場所(プレイス)になるのだ——

日本の各地で、また台湾やマレーシアで出会った人びと。それぞれの土地で、彼ら彼女らの生きてきた歴史を伝えることばに耳を傾けながら、著者は何を考えてきたか。過去を埋もれさせることなく次世代に伝えようという著者の意志は、長年とり組んできた建造物保存にとどまらない。そこに誇りをもって暮らしてきた人びとに学びながら、今ここに生きる自分をみつめ、未来に橋渡しをする。「楽しく暮らす」とは、そういうことではないか。

森まゆみの第4エッセイ集26編。

目次

働き方の倫理
あゝ上野駅、大変身
動坂食堂にて
矢切の渡し——伊藤左千夫のこと
市長さんのアラ、議長さんのアラ——唐津にて
「天を恐れよ」の旗——川辺茂さんのこと
指物は生き残れるか——「昭和のくらし博物館」にて
葬のかたち——はじめて救急車に乗る
「楽しいお産」とは——大野明子さんをたずねて
マレーシア・サラワク紀行
『即興詩人』の忘れ残り
蔦温泉で死んでもいい
西湖——五感の解放
南方熊楠のコスモス——中瀬喜陽氏に教わったこと
「清光館哀史」その後
半農半漁の暮らし
気の合う町、大阪
一月の寒い沖縄
喜界島の田中働助さん
山形いでゆ紀行
台湾の社区総体営造
先住民族のおじいさん——続・台湾紀行
ゆふいん文化・記録映画祭
夜間中学というところ
根津「茨城県会館」始末
銀座の難問
小樽への旅——あとがき