みすず書房

幹細胞の謎を解く

PROTEUS EFFECT

判型 四六判
頁数 352頁
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-07178-5
Cコード C0047
発行日 2005年12月16日
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幹細胞の謎を解く

幹細胞研究とは何だろうか。幹細胞研究の進展により、骨髄移植が白血病患者にもたらしたような特効薬的治療法が、他のさまざまな病気や障害についても得られる可能性があるという。その一方で、科学の進歩が既存の生命観・倫理の枠組みを侵犯する可能性の先端にあるのも、幹細胞の一種、ES細胞である。

本書は、ヒドラの再生の観察に始まり、さまざまな幹細胞の発見‐樹立へ、そして骨髄移植・皮膚培養などの医療応用へと発展してきた研究分野を活写する。科学への情熱と社会的重圧の狭間にいる研究者たちの視点を、著者は多数の生の声に取材しながら丁寧に伝えている。研究ドラマとしても十分興味深いが、それだけではない。

幹細胞がこれまでいくども研究者の認識を超えて新たな可能性を開示してきた経緯を知ることは、研究の意義や性格を考えるうえで欠かせない。医療応用の可能性についても、研究の現状をふまえ冷静な理解につながるよう配慮しながら紹介されている。

幹細胞研究の最前線はすさまじいスピードで押し進められている。数年後には本書の続報が必要になろうという情勢だ。今後は治療の選択肢が増えるなか、どんな治療を受けたいか、あるいは受けたくないか、個人の主体的な判断が重みを増すにちがいない。新しい医療に対し意識的な選択をするために、冷静に読んでおきたい本だ。

目次

プロローグ
第1章 植物か動物か
第2章 マウス 129系統
第3章 紫色の細胞
第4章 培養皿にある謎
第5章 胚の実験
第6章  カナリアの歌——哺乳類の成体の再生能力
第7章 ルイーズ・ブラウン誕生ののち
第8章 サルからヒトへ
第9章 偉業を積み重ねて
第10章 骨髄か脳か
第11章 細胞交換の技術
第12章 明日のその先

謝辞
用語集
訳者あとがき
注釈
索引

編集者からひとこと

ES細胞研究や再生医療研究の生命倫理問題をめぐる論争ではかならず、そのような研究の将来性がどこまでリアルなものなのかが焦点の一つになります。リアルな将来性があるとしたら、それはどういう意味のリアルさなのか。研究者が「10年後は誰も予想できない」と言う時、彼らはどんな事態を想定しているのか。そこを感得するためには、本書にあるような幹細胞研究史を知るしかない、そう私は思っています。

書評情報

最相葉月(ノンフィクションライター)
出版ダイジェスト2005年12月号
この方面は類書が多くいささか食傷気味だったが、不老長寿の欲望を増幅する夢物語とは違う、専門家さえ十分認識していない研究の軌跡を知るために、まず始めに読むべき基本文献といえよう。……本書には細胞療法がいかに有望かを語る科学者は登場するが、著者はそれを礼賛するわけでなく、一方で現段階の問題点も科学者に語らせている。今もっとも動きのある韓国の動向や株価に左右されるバイオ企業の実態に言及されていないのは残念だが、研究史を忠実にたどるというこのストイックな手法と冷静な文体は、読者に信頼感を与えるだろう。