戦後精神の光芒
丸山眞男と藤田省三を読むために

判型 | A5判 |
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頁数 | 400頁 |
定価 | 6,380円 (本体:5,800円) |
ISBN | 978-4-622-07202-7 |
Cコード | C1031 |
発行日 | 2006年3月22日 |
備考 | 現在品切 |

判型 | A5判 |
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頁数 | 400頁 |
定価 | 6,380円 (本体:5,800円) |
ISBN | 978-4-622-07202-7 |
Cコード | C1031 |
発行日 | 2006年3月22日 |
備考 | 現在品切 |
〈もし丸山眞男と藤田省三という二人の人間に出会うことがなかったら、私の生き方はずいぶん違ったものになっていただろう。いや、そんな生やさしいものではなく、今私がこうして生きていることができたかどうかさえ怪しい。いわば私が私になるにあたっては、この二つの巨人と出会ったことが文字通り決定的であった〉
8月15日を境にして、「一身にして二生を経た」丸山眞男と、「精神の運動を開始した」藤田省三。日本社会の精神の変容を深くみつめ続けたふたりの巨人の思考の軌跡を、ともに戦後を伴走した思想史家が活写する。
丸山思想史学における鎌倉仏教論の位置、「武士のエートス」論、ナショナリズム論、藤田省三の「転向」論、「戦後精神の経験」など、類を見ない詳細な解読が、丸山・藤田の思想の核心を浮き彫りにしていく。
他に「下中弥三郎と「大百科」の時代」「岩波茂雄と「岩波文化」の時代」「中村哲の生涯と学問」などを収録。戦後民主主義によって否定された「戦前」とは違う「もうひとつの戦前」の水脈は、「戦後精神」に連なるものである。
九年間に書き溜まった雑文集を一冊にまとめることを思い立ったとき、かねて「解体屋」ならぬ「解題屋」を自称している者として、『解題集』という題名にしようかと一瞬考えた。しかしそれではあまりにも独りよがりの命名になるので、思い直して、内容に即した御覧のような表題にした次第である。
そして、「第一部 もう一つの戦前」「第二部 丸山眞男」「第三部 藤田省三」として編成し直してみると、案外まとまりのよい、一つの流れが浮かび上がるものに仕上がったように思う。また、これを通じて、私自身が今後追究すべき二つのメイン・テーマが、あらためて鮮明に浮かび上がったような気がしている。すなわち、丸山先生の「古層論」を、「もう一つのアジア」的古層と「天皇制」的古層の関係究明という方向で深める仕事と、藤田さんの「精神史的考察」の方法で私なりの「日本思想史大概」をまとめる仕事である。その意味では、これをまとめてよかったと自分では思っている。
とはいえ、藤田さんの仕事への解題として書いた部分など、こうして通読してみると、いわば私小説的な、ないし自分史じみた記述が随所に混入しており、その点、学問に私小説的なものが混入することを蛇蝎の如く忌み嫌われた丸山先生からは、怒られそうな内容になっている。しかしこれは「論文」ではないのだからということで、赦していただくことにする。
前著『批判精神の航跡』のあとがきで、「偶然的出会いの現象学」を自分の生き方の方法としたいと書いたが、どうやらそれは、結局のところ、私の学問の方法にもなったようである。(2006年4月 飯田 泰)