みすず書房

「物語の家族のように/母のように一本の木は/父のようにもう一本の木は/子どもたちのように小さな木は/どこかに未来を探しているかのように/遠くを見はるかして/凛とした空気のなかに/みじろぎもせず立っていた。/私たちはすっかり忘れているのだ。/むかし、私たちは木だったのだ。」(「むかし、私たちは」より)

いまの日本で、谷川俊太郎にならんで多くの読者の心を動かす詩人長田弘による、三年ぶりの新詩集。前作『死者の贈り物』は、親しかった場所や人や書物にささげられていた。21篇を収めるこんどの詩集ではもっと自由に、私たちをとりかこむ自然や世界を歌っていてみごとである。

目次

I
世界の最初の一日
森のなかの出来事
遠くからの声
森をでて、どこへ
むかし、私たちは
空と土のあいだで
樹の伝記
草が語ったこと
海辺にて
立ちつくす

II
春のはじまる日
地球という星の上で
緑の子ども
あらしの海
For The Good Times
秋、洛北で
メメント・モリ
カタカナの練習
見晴らしのいい場所
nothing
私たちは一人ではない

あとがき

池辺晋一郎作曲「交響曲第9番」

作曲家・池辺晋一郎の「交響曲第9番」は、長田弘『人はかつて樹だった』『世界はうつくしいと』『詩の樹の下で』の三冊の詩集から9篇の詩をテキストとした、独唱を伴う9楽章のシンフォニーです。演奏時間45分の大作で、2013年9月15日に東京オペラシティで開かれた「作曲家・池辺晋一郎 70歳バースデー・コンサート」において初演されました。