みすず書房

佐谷画廊は、1978年、京橋に誕生。「マックス・エルンスト、イヴ・タンギー版画二人展」がその皮切りであった。業務の拡大にともなって銀座に移転、2000年には銀座のギャラリーを閉め、現在は荻窪に拠点をおき活動している現代美術画廊。内外の厳選された作家たちを取りあつかうことで斯界では定評があるり、また『アート・マネージメント』等を刊行、慶応大学をはじめ美術系大学で美術品流通に関する講座をもっている。情報公開はされるようになってきたとはいえ、美術市場に対するこの国の行政機関の取り組みや対応の不備には、常々警鐘を鳴らしている。
画廊は、企画展の内容こそがその仕事を表現するものだとする信念によって、展覧会のさいには、充実したカタログを制作。ダイレクトメールとこのカタログの集積をみれば、まちがいなく現代美術の優れた入門書となりうる体のもので、本書は多くこれに基づいている。
90年の「パウル・クレー展」、94年の「ジャコメッティと矢内原伊作」展は話題になり、多くの観客を集めたが、クリスト、ヤン・フォス、カバコフ、ヤン・ファーブルなどの充実した紹介も見逃せない。
青春時に三好達治の薫陶をうけ、コレクターから画商に転身、瀧口修造に私淑する。79年、画廊開設からわずか二年目にして瀧口修造は逝去。戦前戦後の困難な時代にあって日本の現代美術を擁護しつづけた瀧口の営為を顕彰するため「オマージュ瀧口修造」展を企画、これがライフワークとなる。
オマージュ展はタピエスやミロとの詩画集、デュシャン、ブルトン、阿部展也、赤瀬川原平、山口勝弘、榎本和子、西脇順三郎、実験工房、タケミヤ画廊、平沢淑子から今年の大辻清司写真展まで28回を数える。一つのシリーズがこのように密度とひろがりをもって現れてくる、その演出者の証言は傾聴に値いしよう。

目次

五百年往還の旅「メレンコリア1」
天下の音楽が聞こえる——パウル・クレーと私
ジャコメッティ、ヤナイハラ、ウサミ
中川幸夫 オリーヴの森と小川の物語
東京大空襲 一九四五・三・一〇
美術行政はこれでよいのか
三好達治との五〇年
永井國男は生きている
ベルグラン自伝によせて
瀧口修造と実験工房
美術市場と現代美術画廊
瀧口先生との三〇年——オマージュ瀧口修造展をふりかえる

書評情報

美術の窓
2007年4月号
田野倉康一
現代詩手帖2007年4月号