みすず書房

「描き文字の効用については、いままでいろいろ考えてきた。タイトルや題目のフレーズはじつに雄弁なものだし、僕はただその論旨にそって、ときには助長したりして、文字を描いていればいい。だが、文字が指し示すあらゆる事柄には、その形にいたる理由や意図が見えかくれしている。だからその形には描き手の生活と意見がいやおうなく反映される。受け入れ難いものやうんざりするほど馴染みすぎた形。どうしても形のとれない文字や描く気になれない文字……。と産みの苦しみをさんざん味わいながら、そうしたことをそっくり引き受けるのが描き文字師の当然の役割だし、腕の見せどころだろうと気をとり直すこともある」(本文より)
独特ののびやかで骨太な描(か)き文字で、1960年代後半から現在まで、本の世界を愉快にいろどってきたグラフィックデザイナー平野甲賀。好きな本のこと、装丁のこと、演劇ポスターのことから、作業日誌、描き文字作品、対談まで。ひとりごちる描き文字師のユーモラスなエッセイから見えてくる、クラフトマンシップのこだわりとこだわりたくないこと。40年の生活と意見がつまった平野甲賀ヴァラエティ・ブック!

目次

1
二冊の本/カバーのルーツ/植草さんの錬金術/だれでもできるプリントゴッコ/バナナ植民地/印刷、漫画、クロントイの子どもたち/タイの漫画/出来上がるのが待ち遠しい時/京都日記/フランクフルト・ブックフェア/僕が作った本 1984年の記録から/本づくりの周辺/大きな顔/私の一冊/ものを見てかく手の仕事
2
理想の日本語辞典/装丁をリトグラフに仕立て直す/文字の力/笑うタイポグラフィ/書とデザインの間  草森紳一氏と対談/呼吸する文字/レイアウトツール「イン・デザイン」作業始め/文字をめぐる冒険  石川九楊氏と対談/甲賀の眼  僕のデザイン見聞史 型のあるイラストレーションが好きなんだ/紙とデザイン/装丁家にできること/kougaHIRANO対shinSOBUE(祖父江慎)
3
舞台装置家の姿勢/あっちこっち/白龍と喜納昌吉/賢治の時間/「ダサイ」ですまぬ何か/甲賀の眼 僕のデザイン見聞史 ポスターは運動の旗印だ/パンク、パンク、パンク/演劇は労働である/ぴらんでっろ/イワトの仕事

コウガグロテスク  あとがきにかえて

書評情報

坪内祐三(評論家)
週刊ポスト2007年6月15日号