みすず書房

〈私たちは、思想に、他をおしつぶすような力を求めすぎる。もちろん、それも思想の力の一種だけれども、その種の力だけを重く見ると、宣伝力といっしょくたになってしまう。そうなると、テレビを占拠しているものの思想が最大の思想ということになってしまう。学生運動の場合などでは、最も大きい声を出せるものが、最大の思想家ということになろう。そういう規準からすれば、非戦の思想とか、非暴力の思想は、重要な思想にはなり得ない。
だが、自分とちがうものに恐れず近づき、ちがうものをつなぐはたらきをするという思想のはたらきは、ちがう思想を理解することもなしに力でおしつぶすというやりかたとはちがう、おもしろい役割をになっている。日本文化の重層性のふんぎりのわるさの中には、そのような理想が含まれているように思える〉(義円の母 1970)
第2巻(1970-1987)には、オーウェル、エリクソン、花田清輝、林達夫論から野坂昭如・五木寛之・井上ひさしを論じた「冗談音楽の流れ」、丸山真男『戦中と戦後の間』、滝田ゆう、竹宮恵子の漫画、柴田道子や乙骨淑子の仕事、金時鐘『猪飼野詩集』、「これは面白い文庫本66冊」まで57編を収録。巻頭に未発表講演録「本の未来」(1999)を付す。

目次

本の未来
I 一九七〇—一九七九
オーウェルの政治思想 『オーウェル著作集』第一巻
動揺するガンジー エリック・H・エリックソン『ガンジーの真理』
義円の母
はじめて読んだ本
花田清輝の戦後
哲学者としての湛山 『石橋湛山全集』第一巻
宣長の思い出
秋山清 この詩人の直観力と人がら
コンラッド再考
滝田ゆう
林達夫 本を読む生活者
物の中に心をおいて 武田泰淳『黄河海に入りて流る』
近藤芳美論 集団の熱狂から自由な眼をもつ歌人
花田清輝の日本への回帰
梅本さんの文章
日本語で書かれた国際小説 金達寿『玄海灘』
占領のある自画像
ウォードおよびシュルマン共編『聯合国による日本占領 一九四五—一九五二』
中村きい子『女と刀』
冗談音楽の流れ 野坂昭如・五木寛之・井上ひさし
「特権」と「人権」 武谷三男『物理学は世界をどう変えたか』
制度と原則 平野謙『「リンチ共産党事件」の思い出』
柴田道子『ひとすじの光』によせて
本の読み方の深さを教える 丸山真男『戦中と戦後の間』
『『風流夢譚』事件以後』を読んで
家をよりどころにした学問 箕作元八『フランス大革命史』
『谷川俊太郎詩集』 忘れることの中にそれがある
ひとりの読者として 守田志郎『日本の村』
軍国主義下の老子伝 『石川三四郎著作集』第六巻
竹宮恵子の漫画
主婦の仕事から夫の仕事を考える 福田定良『仕事の哲学』
なくなった雑誌
開高健の政治意識
新里堅進の劇画『沖縄決戦』
その自己批評の規準——加藤周一
息の長い詩 金時鐘『猪飼野詩集』
加太さんの紙芝居学 加太こうじ『紙芝居昭和史』
II 一九八〇—一九八七
「老い」について考えるための文献
イギリス民衆芸術覚書 小野二郎『紅茶を受皿で』
書物について
劇学の軽い身ごなし ケネス・バーク『動機の文法』
現在に至る日本をみつめる 内海愛子『朝鮮人BC級戦犯の記録』
同時代の中のまれな人
大西巨人『俗情との結託 大西巨人文芸論叢 上』
書き残された三百一通の手紙
G・W・オルポート編著『ジェニーからの手紙』
管理に屈服しない魂の物語 椎名誠『哀愁の町に霧が降るのだ』
戦死者と出会う楽しいひと時 高橋三郎編著『共同研究 戦友会』
植民地という故郷 森崎和江『慶州は母の呼び声』
バスクまで来た長い長い道 司馬遼太郎『街道をゆく22』
日本哲学史のある粗描 古在由重『和魂論ノート』
『広告批評』の批評の力
体験の意味を問う記録 李泳禧『分断民族の苦悩』
少年になった父 乙骨淑子『ぴいちゃあしゃん』
「ぞうさん」の宇宙 阪田寛夫『まどさん』
世間に膝を屈しない心 安部譲二『塀の中の懲りない面々』
宮柊二のこと
日本の世論に投げ込まれた異物 吉永春子『さすらいの〈未復員〉』
手がきの詩集 長田弘『食卓一期一会』
これは面白い文庫本66冊