みすず書房

1972年5月15日、自らは出席しなかった沖縄返還協定調印式の日の日記に、屋良朝苗知事は、こう記した。「またまた茨の道、斜の山はつづく」。
島の二割近くを占める基地群、軍用機の騒音や墜落事故、環境汚染・環境破壊、米兵による事件や事故、さまざまな不平等や問題をかかえた地位協定、基地関係財源に深く依存した自治体経済…返還から35年以上たっても、沖縄は「問題」でありつづけている。このような状態が、沖縄にとって「講和」となるはずであった復帰にのぞんで沖縄の人々が描いた将来の姿だったのだろうか。かつて「非武の島」といわれた沖縄は、なぜ「戦の島」となってしまったのだろう。
本書は、「最重要基地」としての米国の沖縄戦略の経緯を1945年3月の「沖縄戦」以前から書きおこし、沖縄戦の詳細、日米安保体制の形成と展開、「復帰」後までを、一方での外交文書の博捜と読解、他方での沖縄現地の動向の両方を合わせ鏡に、綿密に描く。吉田=ダレス会談や佐藤=ジョンソン声明の背後に何が動いていたか。「五・一五」メモ等を通してみえる日米政府のビジョンとは? 基地問題を中心に、「復帰の主人公」が作りだす物語と「施政権者」や「潜在主権」保有者の作りだす物語を、ときに交錯させ、ときに対位法的に描いた本書から、沖縄の過去・現在・未来を考えたい。

目次

第1章 沖縄戦への道
序論 非武の島から戦の島へ/1 相剋する戦争指導/2 アイ・シャル・リターン/3 沖縄進攻の決定/4 一〇・一〇空襲/5「氷山(アイスバーグ)作戦」の策定/6 戦争、革命、そして沖縄
第2章 沖縄戦
1 慶良間戦と強制された集団死/2 米軍が上陸した日/3 守備隊、起つべし/4 攻勢か持久か/5 勝敗の分かれ目/6 見捨てられる沖縄/7 沖縄戦と帝国
第3章 沖縄と日米安保体制の形成
1 「最重要基地」沖縄の「排他的戦略的支配」/2 沖縄と双面神マッカーサーの「平和」憲法/3 昭和天皇「沖縄メッセージ」の深淵/4 日米安保の定式化と沖縄/5 吉田外務省の安保・沖縄構想/6 安保条約交渉のなかの沖縄/7「潜在主権」論
第4章 沖縄と日米安保体制の展開(1)——沖縄と六〇年安保改定
1 沖縄「軍用地問題」の淵源/2 反基地運動のなかの「沖縄」/3 安保改定の起動/4 沖縄と「六〇年安保改定」(1)——沖縄へ収斂する安保改定/5 沖縄と「六〇年安保改定」(2)——「排除される」沖縄/6 沖縄と米国の対日新政策
第5章 沖縄と日米安保体制の展開(2)——沖縄「復帰」とベトナム戦争の影
1 復帰論の光芒/2 中国の核、日本の「核」、そして沖縄/3 ブルー・スカイ・ポジションの臨界/4 復帰への道程(1)——核、琉球、安保体制/5 復帰への道程(2)——沖縄復帰の「大義」/6 復帰への道程(3)——「決定の年」/7 沖縄が「復帰」した日
第6章 未完の復帰と沖縄基地問題
1 そして「基地」は残った/2 「五・一五メモ」の相貌/3 地位協定問題の歴史的位相/4 地位協定問題の現在/5 結び——戦(いくさ)の島から非武(ひぶ)の島へ