みすず書房

〈フルトヴェングラーの演奏からいつも私どもは、何かあやしい官能性を感じます。……それは奥深いところでは、ドイツ精神に流れている一種のデカダンス——崩壊感覚——にさえ通じているものがあると思うのであります。ただ、それがフルトヴェングラーの場合、彼の高い知性によってコントロールされて、無制限な氾濫にならずに、実に見事な構築のなかにおさめられています。……
芸術家が精神の自由を守るために、外の世界、とくに政治の世界にかかわることには、ミイラ取りがミイラになる危険性がいつも付きまとうわけであります。けれども、場合によってはその危険をあえて冒さないでは、つまり、サザエのように外の嵐にたいして殻を閉ざすだけでは、芸術の根底をなす自由自体が守られなくなる。それどころか、そういう内に閉じこもる態度が結局、大きな政治の翼に抱きすくめられてしまう結果になりやすい。それが現代のいわば宿命でありまして、フルトヴェングラーの悲劇というものは、この宿命を一身に体現していると思うのであります。〉
(「フルトヴェングラー」1960年9月)

第3巻には、日本学士院論文報告「闇斎学派の内部抗争」「江戸時代における〈異端〉の意味論」や、ジャーナリストや読者との、音楽、時事問題をテーマとした懇談会「ある日のレコード・コンサートの記録」「安全保障に関する、ある勉強会の記録」「〈自粛の全体主義〉のさなかに」など、全9編。

目次

I
闇斎学派の内部抗争——日本学士院論文報告 1980年1月
江戸時代における「異端」の意味論——日本学士院論文報告 1982年6月
II
フルトヴェングラー——音楽と政治 1960年9月
ある日のレコード・コンサートの記録 1992年3月
——モーツァルトからスターリニズムまで
III
『忠誠と反逆』合評会コメント 1993年4月
歴史意識とは何か 1979年6月
——慶應義塾大学 内山秀夫研究会特別ゼミナール第2回
IV
安全保障に関する、ある勉強会の記録 1981年6月
——徴兵制の起源と人民の武装権
戦争とオペラをめぐる断想——伊豆山での対話 1994年8月
「自粛の全体主義」のさなかに——丸山眞男先生を囲む会 1988年11月