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ジョイスと中世文化

『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅

著者
宮田恭子

パリに住んでいた頃、ジョイスは若い友人のアーサー・パワーと散歩しながら〈中世〉についてこう語った――
「……古典時代の建物は過度に単純で神秘性に欠けるといつも思う。ぼくの考えるところ、今日の思想で最も興味深いことの一つは中世への回帰です……アイルランドに関していちばん面白いところは、われわれは基本的に中世人で、ダブリンはいまだに中世の都市だということです……ものを書くときは、古典様式の固定したムードとは反対に、ムードと現在の衝動に動かされるままに、果てしなく変化する外面を創造しなければならない。〈進行中の作品〉はそれです。大事なのは何を書くかではなく、いかに書くかということ。……避けるべきは、硬直した構造と情緒的な制約をもつ古典です。中世的なものには古典的なものよりも情緒的な豊饒さがあります」
現代文学の極北に位置するジョイス文学の中でも、読者の読みを最も要請するのは『フィネガンズ・ウェイク』であろう。この〈混沌宇宙〉を解読する一つの有効な切り口が〈中世文化〉である。ジョイスの革新性は確固たる伝統に根差しているのだ。本書は、この問題意識を抱きながら実際にヨーロッパを歩き、パドヴァやノートルダム、ダンテや錬金術などを丹念に観察・考察した体験から生まれた、刺戟的なエッセー=論考である。


目次


まえがき
1 ダブリンからアッシジへ、アッシジからパドヴァへ
 アッシジの聖フランチェスコ――パドヴァの聖アントニウス
2 パドヴァ大学
 ルネサンス論に見るジョイスの中世観――大学史の人物たち
3 美徳・悪徳
 首徳――美徳と悪徳の戦い――美徳・悪徳個別の図像――ショーンの説教
4 地獄絵
 天国と地獄――地獄絵――『神曲』の地獄と『若い芸術家の肖像』の地獄――「地獄篇」と『フィネガンズ・ウェイク』
5 天国に至る道――梯子・塔・迷宮
 天国に至る梯子――煉瓦職人HCEと梯子・塔――ラビュリントス(迷路・迷宮)
6 善政・悪政
 市長となったHCE――「善政」のフレスコ画――「悪政」のフレスコ画――『宝典』とダンテ、ジョイス――プッブリコ宮の「善政」とHCEの「善政」
7 三科・四科
 三科・四科――造形芸術の七学科――アルテス・メカニケ――シェム・ショーン兄弟の幾何学の勉強
8 音楽
 聖セシリア――造形芸術の聖セシリア――天国の調べ・地上の音楽――楽器を奏でる天使――『フィネガンズ・ウェイク』の楽器
9 月暦図
 月々の仕事――十二宮図――「サローネ」の「月暦図」――「サローネ」の十二使徒と居酒屋の客――スキファノイア宮殿
10 錬金術
 ニコラ・フラメル――「上の仕事は下のフラスコ」――――洗濯女たち――ペンマン・シェムの錬金術――ノートルダムの錬金術的表象
11 ゴシック建築
 パリのゴシック建築――ルーアンの大聖堂――増殖の芸術

テクストおよび参考文献
あとがき


著訳者略歴

宮田恭子
みやた・きょうこ

1934年、石川県に生まれる。東京大学教養学部教養学科イギリス分科を経て、1969年、大学院人文科学研究科比較文学比較文化修士課程を修了。元玉川大学教授。 ...続きを読む »

※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

著者からひとこと

『ジョイスと中世文化』余話(宮田恭子)

錬金術を象徴的に描く中世の写本『太陽の光彩』を見たいと、所蔵する大英図書館へ閲覧申請書を送った。しかし、マイクロフィルムなどの代替物ではなく原物そのものを見なければならない理由が薄弱だとして、申請は却下された。 ...続きを読む »

書評情報

結城英雄(法政大学教授)
<日経新聞 2009年4月12日(日)>

この本の関連書


「ジョイスと中世文化」の画像:

ジョイスと中世文化

「ジョイスと中世文化」の書籍情報:

A5変型判 タテ200mm×ヨコ148mm/280頁
定価 4,860円(本体4,500円)
ISBN 978-4-622-07454-0 C1098
2009年3月2日発行

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