みすず書房

「人間とはなんだろう。人は苦しいときに、どんなことを思い、何を残そうとするのか。ことばは、作品は、自分のためにあるだけのものでよいのか。作家の目は、いま輝いているのか。」
「…「文学者」がいたことを、今日の読者は知らない。まわりにそういう人の姿をみかけることがなくなったからだ。作品だけを書いて、みちたりる作家しかいないからである。興味の幅がせまくなった。興味をひろげるための空気をどのようにつくりだすかという心のはたらきもにぶる。」
「いま歌をつくる人たちは、自分が歌をつくることだけに興味をもち、歌をかえりみなくなったように思う。これまでの名歌をそらんじたり、しっかり文字に記すことのできる人は少ない。歌の歴史への興味もうすい。おそらく自分が「濃い」のだ。自分を評価しすぎているのだ。」
詩、歌、小説、批評などの「ジャンル」は、いま、どのような門をかまえるのか。これからどんな力と役割にめざめるのか。
現状をなげくのではなく、かつて書かれたものを読み返し、「実学としての文学」を考える新エッセイ集。「同時代に荒川洋治という書き手をもつのは、この上なく幸せなことなのだ」(池内紀氏)

目次

I
散文がつくる世界
花模様の夢
沈んでいいものはない
文学の門
午前一〇時の波
「すべては遠い」
批評の影
見えるかぎりのものを
小熊秀雄

II
「発見」を見る
小型国語の世界
「ノリとハサミ」の贈り物
印象のない王朝
紙の音
「坊や」の頭をなでながら
ふたりで、ふたり
屋根の上のカボチャ
椿姫のようす
キエフの坊ちゃん
見ていることば
あっ!
切る
平次の顔のなかに
日記のなかのオーロラ
ひっつく
そのままの道
赤い記憶
おやつを知ると、親しみがわく
「一日」の本
軌道とラッパ
あいろ
労働文学
基礎の時間
出典の読書
タムラマロと、サガミガワ
坊主

III
「昭和一〇年代作家」への旅
実学としての読書
「風土記」のなかの風景
昭和五、六年のうどん玉
屋上のなわとび
チェコの森の草むら
記録のことば
理科の感想
「1954」の読書
磯田光一
眼のなかの世界
もう少ししたら、きれいになるよ
先生
思われる歌
岸辺の声
文字のことば
「本をばらす」衝撃
暮れてからの旅

あとがき

書評情報

毎日新聞
2010年1月31日(日)
川上未映子(作家)
読売新聞2010年1月10日(日)
井坂洋子(詩人)
てんとう虫2(2010年2月号)
産経新聞
2010年1月31日(日)
水無田気流(社会学者)
週刊文春2010年2月4日号
白井明大(詩人)
図書新聞2010年4月10日(土)

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