みすず書房

「赤石川入渓の折だった。ありがたいことに私五十歳にして“渓のおきな”の称号をいただくことになった。身にあまる光栄と、その称号を拝したのである。この称号をいただくことになったのは、せばたさんは歳にあわず山渓のことすべてを知りつくしている、おどろきだ、という意味でのお三方からの賛辞のつもりと思っている」。
日本の伝統的な毛バリ釣り、「テンカラ釣り」の第一人者として知られ、“渓のおきな”の愛称で渓流釣りファンに親しまれている著者が、戦後まもない少年時代から、古稀をむかえてなお旺盛に深山幽谷へわけ入る現在までを、自在に書き尽くした。
故郷の身近な自然、渓流魚(ヤマメ、イワナ)との出会い、源流釣りの醍醐味、知られざる渓への憧憬、ブナ森の粋美ただよう息吹、山渓で培った山川草木の知識、山棲びとやマタギ、釣友たちとの合縁・奇縁、家族のこと、親子のこと、山でのアクシデント——たぐいまれなる自然人の、含蓄ふかい自伝である。

目次

I 渓流から源流へ
筑波山を仰ぎ見て
渓の精との出会い
テンカラ事始
「テンカラ」語源説
源流の釣りへ
ブナにこがれて
未知の渓、早出川
桧枝岐の惣十さん
巨樹の立つ和賀山塊
いのちを育む白神のブナ

II 四季の博物誌
蛇のあれこれ
さくら咲く里山
ホタルのひかり
アユ釣りの夏
メジロアブ、そのほか
キノコの秋
熊のはなし
クマ鍋とシカ刺
ナラ枯れ病の脅威
放流と異形のイワナ

III テンカラ釣りの半世紀
悠久の谷、黒部
埋蔵金伝説
サクラマス捕物帖
日米毛鉤釣り合戦
震災の訓え
少年隊との源流行
せんせいと四人の生徒
熱中症の顛末
痛恨の“キノコあたり”
親子ふたりの源流行
懐旧の山と谷とイワナたち

あとがき

書評情報

手嶋亨
山の本2011年春号(4月15日刊)

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