みすず書房

神話論理の思想

レヴィ=ストロースとその双子たち

判型 四六判
頁数 346頁
定価 3,850円 (本体:3,500円)
ISBN 978-4-622-07598-1
Cコード C1010
発行日 2011年4月20日
備考 在庫僅少
オンラインで購入
神話論理の思想

〈分析の展開の中で、レヴィ=ストロースは、他者、歴史、芸術、地球や人類の未来について、彼の思想を披瀝している。とりわけ第一巻の「序曲」と第四巻の「終曲」にはそれらが目につきやすいかたちで述べられている。そのため、これまでレヴィ=ストロースの思想を論ずるとき、それらのわかりやすい箇所だけが取り沙汰され、肝心の本篇ともいうべき神話の詳細な分析がなおざりにされがちであった〉(「序」)
レヴィ=ストロースを読み込むとはどのようなことだろうか。主著『神話論理』の全巻を、構造分析の現場に降り立ち、繰り返されるキーワードに目をとめながら精細に読み解いていく。巻を追って、「終曲」から『親族の基本構造』をへて「序曲」へ螺旋状に、また、意味するとは、ブリコラージュとは、自然とは、人類学的歴史とは、他者の到来を俟つとは何かを問いながら。 類似するが完全には同化することのない「双子の不可能性」を南北アメリカ先住民は神話で語った。「二卵性双子」としてのフーコー、ベイトソン、エヴァンズ=プリチャード、リーンハート、現代ブラジルに生きるパナラの人々までつながるレヴィ=ストロース思想のバラ窓を照らし出す。

目次



第一部 『神話論理』を読む
1 生成する中空——I『生のものと火を通したもの』II『蜜から灰へ』
広い机/直線的読みを阻止する記述/構造=出来事/作曲者=指揮者としての神話/螺旋的進行/中空と中身の詰まった、文字通りと比喩的、容器と中身/喪失としての起源/他者のための場所
2 関係の関係性という旅——III『食卓作法の起源』
〈カヌーの教え 往路〉 神話のモラルは女性の抑圧か/女の昼夜平分性/サンダンス/カヌーの舳先と艫にいる二つの天体/カヌーに乗った女と男/結合における分離/〈料理の三角形 折り返し〉/〈数の教え 復路〉 デュメジル的/神話からロマンへ/一〇個組から引き返す/充満と真空のあいだで
3 山分けの時空——IV『裸の人』1・2
調理から衣服へ/自然の山分けモラル/神話同士の山分け/ラセミ体的神話/時間が空間になる/冷たい社会/加熱調理法再び/人間の黄昏/構造分析は儀礼的か
4 眼と精神——「終曲」から
自然から文化への移行?/世界と人間/インセスト禁忌/物それ自体/歴史と儀礼/知性と感情——インゴルド批判/レヴィ=ストロースの二つの自然?/贈与とアメーバ
5 神話が染み込み、火花を散らす——「序曲」へ
人間の知らないところで神話が考え合う/サンボリストとしてのレヴィ=ストロース/無意識の場所でありながら意識的になろうとする/サンボリストとしてのアメリカ先住民

第二部 『神話論理』の問題系
6 距離への配慮
フーコーとレヴィ=ストロースの神話論的素描/〈レヴィ=ストロース I〉/〈フーコー I〉 立ち返り=回心/理性的自己と個としての自己——自己の二重化/セネカ/真理・主体化・反復/関係としての自己、媒介者としての他者/〈レヴィ=ストロース II〉 クラインの壺型神話/二卵性双子/〈フーコー II〉 分身の思想/〈レヴィ=ストロース III〉 対話としての神話/レヴィ=ストロースとフーコーという双曲線
7 パララックス
ありふれたことへのまなざし/コミュニケーション不全の神話学/エヴァンズ=プリチャードとサンザ/リーンハートとパララックス/象徴値ゼロのシーニュとしての「自然」/メッシィな構造/凸面鏡としての神話
8 他者のための空洞
構造という川床/借用による充実/パナラのサッカー場/ディンカの自由神霊/ディンカの「何」の神話/ブリコラージュ再考/まだ見ぬ人との再会

おわりに——なぜ『神話論理』は四巻なのか
あとがき

参考文献
索引

書評紙二紙にとりあげられました

『週刊読書人』『図書新聞』の二紙の書評にいちはやくとりあげられました。

……「いったい何カ所に付箋を貼っただろうか。それぞれについてじっくり考えてみたいところだが、ここでは一つに限って述べよう。本書の功績は、文化と自然の実体的な対立関係を解きほぐし、むしろその連続性を明らかにしたこと、そしてそこから、歴史的な不可逆性ではなく、構造的な再帰性——著者の言葉では「展開を続けていける「変わりなさ」」——を引き出したことではないかと思われる」
「個人的には、本書を熟読するうちに、従来のレヴィ=ストロース論にはかつてなかった幸福感を味わったことを特筆しておきたい。それは、著者が、「物それ自体の世界」を「決してたどりつけない領域」と(ロジックに)みなし、「現象の世界」にとどまりながら、それでいて二つの世界が連続していることを確信し、双方の行き来を楽しんでいるからではないだろうか。まず「私はコヨーテの友だちである」と思うこと。そしてコヨーテの友だちになること。この二つの事態が出口氏においては両立しているようであり、その闊達さには羨望さえ抱く」……
昼間賢(フランス文学)『図書新聞』2011年7月16日(土)

……「一度でもレヴィ=ストロースの著作に触れた者なら、彼のライフワークの全巻通読にどれほどの困難が待ち受けているか、どれほどの忍耐力が必要かを想像できるに違いない。第一巻冒頭から科学や哲学、音楽、言語学などへの言及があり、膨大な数の神話が引用され、その細部を忘れた頃に再び論じられるという、たいへん厄介な書物である。読解に際して、出口氏は広い机に邦訳を広げ、原著や英訳書、民族分布図や星座早見表などを参照し、神話に関する大量のメモを取ったという。そして、本書の執筆は、序章と最終章を中心とする解説書が多い中、見過ごされがちであった各巻の神話分析の箇所におもに焦点を当てて進められた。特徴的なのは、氏がレヴィ=ストロースにことさら反論を試みておらず、しばしば他者が行った反論に対し、本人になり代わって再反論を行っていることだ。その見解にできるだけ忠実であろうとする姿勢が窺われる」……
東ゆみこ(神話学)『週刊読書人』2011年7月8日(金)

書評情報

東ゆみこ(東京大学大学院特任研究員)
週刊読書人2011年7月8日(金)
昼間賢
図書新聞2011年7月16日(土)

関連リンク