みすず書房

「長いあいだ敬しながら少し遠ざけ、その人の魂の内側に深くのめりこむようにして読むことを避けていた。逝去の知らせに接してから、しきりに考えつづけている。休火山のように、私のなかで眠りについていたモチーフがあったようだ。それが呼び覚まされ、もう一度新たに吉本隆明を読む時間が始まった。ただ本を読みなおすだけでなく、かつて読みつつ考えたこと自体を、つまり自分の脳髄に刻まれた時間自体を読みなおすことになる」

吉本隆明とは何者だったのか。いまもなお受けとるべきその問いとモチーフは何か。「関係の絶対性」「大衆の原像」から「自己表出」「共同幻想」「心的現象」を経て母型論、ハイ・イメージ論へ。「戦・後の断絶」を真摯に生きた詩人批評家の軌跡をたどり、自在にジャンルを越境するブリコラージュ群をあざやかに読みといた思想地図。

目次

〈吉本隆明 煉獄の作法〉
序章 喪の思考
1 始まりの情況/2 第一のモチーフ/3 「関係の絶対性」から幻想論へ/4 ジャン・ジュネに訊く
IA 最初の問い
1 批判の〈アンビヴァランス〉/2 暗い思想の意味/3 〈他力〉の絶対性/4 社会構造の論理化/5 終わらない問い
IB 大衆はどこにいるのか
1 逆立の意味/2 ナショナリズムにおける屈折/3 ダブルバインド/4 大衆、民衆あるいは共同体
IIA 言語、生成と転移
1 発生的考察/2 自己表出の拡張/3 表出史のアモルフな時間/4 構成論の焦点
IIB 共同性、新たな問い方
1 古い日本をめぐる新しい問い/2 入眠から制度へ/3 発生過程の幻想/4 「南島論」の意味/5 山口昌男の批判
IIIA 心的現象論の軌跡
1 第三の領域/2 精神分析と現存在分析/3 時間と空間、純粋疎外/4 心的現象論の展開/5 フーコー、ドゥルーズのほうから/6 大洋の精神分析
IIIB 「現在」から遠ざかる方法
1 臨死体験と大洋/2 一九八〇年代/3 新しい自由/4 世界視線の定義/5 自然論と新資本論/6 ポストモダンな動物
終章 渦巻きの批評

〈付録〉
吉本隆明『宮沢賢治』を読む
みるも無残な近代…? 吉本隆明『詩学叙説』
倫理的なもの、詩的なもの

あとがき
初出一覧

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