みすず書房

1945年全ソ連演奏家コンクールでリヒテルと首位を争ったロシア最長老の名匠にして、65年間モスクワ音楽院で教えたヴィクトル・メルジャーノフ(1919-2012)。彼の愛弟子だったピアニスト原田英代がロシア的《響き》の謎を追った。
グリンカ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチ、ホロヴィッツ……数多の卓越したピアニスト・作曲家を輩出し、世界を震撼させたロシア・ピアノ楽派とは何なのか。19世紀からソ連時代をへて現代へと、どのような教えや技法が受け継がれてきたか。
古来、ロシアの教会では楽器の演奏は許されず、人間の声による典礼だけが行われ、また民衆の生活には歌があった。《歌》がロシア音楽の基盤であり、そこから独自の「語る音楽、歌うピアノ」が確立した。
フランツ・リストの弟子たちを源流とする豊麗たる系譜。楽譜の読み方。身体の使い方。スタニスラフスキーに学ぶ感情表現。言語のリズムと音の関係。演奏活動の実際。
ロシア・ピアニズムを特徴づける「重量奏法」の習得を果たし、ドイツを拠点に活躍、師匠の教えを胸に精進しつづけるピアニストにしか書けない本書は、ピアノを弾く人にはインスピレーションを、音楽愛好家には驚きを届けるだろう。

目次

プロローグ

第一章 ロシア音楽の黎明──西洋音楽の浸透
1 破天荒の天才ピョートル大帝
2 夢想家エカテリーナ女帝
3 民衆の歌

第二章 世界をうならせたロシア・ピアニズム──確立と系譜
1 外国人フィールドが築いた基礎
2 ロマン派ヘンゼルト
3 フランツ・リスト現れる
4 ディレッタンティズム一掃を掲げて
5 アントン・ルビンシュテインの登場
6 サンクトペテルブルク音楽院の創立
7 モスクワ音楽院の創立
8 モスクワ音楽院におけるリストの影響
9 サフォーノフの技巧訓練
10 リストの孫弟子イグムノフとゴリデンヴェイゼル
11 新しい風ネイガウス
12 ロシア・ピアニズムの多様性

第三章 名匠ヴィクトル・メルジャーノフ
1 ヴィクトル・メルジャーノフの生涯
2 芸術家メルジャーノフ
3 メルジャーノフの教え
4 メルジャーノフ語録
5 スタニスラフスキーのすすめ──演劇から学べること
6 師の背中を見て育つ

第四章 ストレインジ・シューベルト
1 山口昌男とシューベルト・チクルス
2 シューベルトと産業革命
3 共演者に恵まれて
4 シューベルトの歌曲を伴奏して
5 人間の心を描く音楽
6 愛と苦しみ──私のシューベルト観
7 歌うシューベルト

第五章 朗読と音楽のコーポレーション
1 朗読付きコンサート
2 「微笑みは嵐に吹き飛ばされて」──アルマ・ロゼの生涯
3 ドイツとロシアの朗読事情

第六章 身体が生みだす響き
1 身体の使い方
2 手の使い方
3 奏法について
4 響かせる感覚
5 自分の身体との対話

第七章 響きで創造する
1 音楽のシンタックス
2 生きている響き
3 《無》の心から生まれでた音

エピローグ──響きの翼に乗って


あとがき
人名索引

書評情報

吉田純子
朝日新聞(音楽欄関連記事)2014年10月20日(月・夕)

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