みすず書房

紅葉する老年

旅人木喰から家出人トルストイまで

判型 四六判
頁数 276頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-07925-5
Cコード C0098
発行日 2015年9月10日
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紅葉する老年

老年期=人生の紅葉期には生がせっぱつまって花開く。命の個性の幅は、常識の幅より広いのだ。
土牢に閉じ込められ、黒パンと水だけで生きたロシヤの宗教者たち。農民の陽気な顔をした仏を彫って歩いた江戸時代の旅僧木喰(もくじき)。「これでも私は学ぶ」と、杖にすがる自画像を描いたゴヤ。レンブラント、ファーブル、田中正造、三浦敬三・雄一郎親子等も登場する。
圧巻は82歳で家出をしたトルストイだ。財産と家を捨て、「いつ死んでもいい」を土台に最後の一週間で自分の仕事をした。「政治への関心は他者の命への関心である」——権力・テロリズム・貧富の差・医療と介護・宗教・反戦論・死刑制度。トルストイの背負った袋には、21世紀が考え抜くべき問題の原石がつまっている。
脳は自分勝手に遊ぶのが好きだ。できるかぎり自分を他者に預けずに人生の後半を進んでいくと、老年は砂漠にならないだろう。
円く老いた木喰と、安らぎを拒否したトルストイと。老年の自治権を独創的に使い尽くし、紅葉人になるための人生の使用法を、ロシヤ文学研究の碩学が追った。

目次

序 宇宙からの贈物

I 人生の紅葉について
第一話 命の個性
第二話 「これでも私は学ぶ」──老人ゴヤ
第三話 レンブラントの二つの顔
第四話 アヴァクームの黒パン
第五話 「年をとってはいけません」──ムスフェルト先生の思い出
第六話 坐ったままで──ファーブル
第七話 浦島太郎の死体
第八話 手作りの翼──三浦父子遠望
第九話 命の円さについて──木喰

II トルストイ八二歳
1 「心の安らぎは精神的卑劣さです」
2 「神はここに、この絞首台に吊るされておられる……」
3 「ほら、人間の姿をした悪魔がいる」
4 「死を希ふことなく、生を求むること勿れ」
5 「ひょっとしたら死ぬ。いいことだ」
6 「地球全体が大きな墓にすぎない」
7 「人にかくすほどの物をばもつべからざるなり」
8 「百姓はこんな死に方をしない」
9 「警察もひざまずけ!」

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書評情報

京都新聞「凡語」
2015年10月31日
伊豆倉哲(時事通信社解説委員)
厚生福祉(時事通信社)2015年10月30日
五木寛之
日刊ゲンダイ「正月休みに読んだ本」2016年1月15日
中沢孝夫(福山大学経済学部教授)
週刊朝日2016年1月15日

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