みすず書房

「いつか私は書かうと思つてゐた、出来事の多い物語を。それもなるべくは美しい色どりばかりで、恵みあるあかりの下に読みかへされるならば、意味ふかくあらゆる官能に浄らかな歓喜が湧きおこる。」

ある日風になった青年、アンリエットとその村、吟遊詩人のレクイエム、月のめえるへん、そして鮎と名づけられたひとりの少女との出会いと別れ——26歳で夭逝した立原道造が生前に出版を企てていた物語集が、本書『鮎の歌』である。詩人の没後60余年を経て、初めての普及版としていま蘇る。

「立原道造以外には誰にも模倣できなかったこの詩的奇術が今なお人々を惹きつけてやまないのは、それが何かを隠蔽しようとして行われた手先の小技ではなく、逆に、彼の人生の実存のすべてをそこにあからさまに露呈させている倫理的な決断だったからだろう。」(「解説」より)

そんな美しい奇術にも似た「物語詩」のこころよい甘さに身を浸す悦びを、ここにお贈りします。

目次

かろやかな翼ある風の歌
春のごろつき
間奏曲
生涯の歌

鮎の歌
 メリノの歌/ちひさき花の歌/花散る里/
 鳥啼く夕べに詠める歌/鮎の歌/物語/物語

解説  松浦寿輝