みすず書房

「この町も戦災のために無くなつてしまつて、そこに住んでゐた人達も離散して、いまはその消息もわからないといふことが、私にこれを綴らせるのである」

新聞配達をして戦前の数年間を暮らした下谷竜泉寺町、炭坑員としておもむいた雪深い夕張の町。これら「小さな町」で出会った、それぞれのささやかな人生を、懸命に、静かに生きる人々。人生のよろこびやかなしみを、不器用な手つきですくいあげるように綴る。

表題作の他「をぢさんの話」「雪の宿」など短篇10篇を所収。1965年、不遇のうちに53歳で没し、近年ふたたび注目を集めつつある作家の代表的作品集である。(堀江敏幸解説)

目次

小さな町
をぢさんの話
西郷さん
離合
彼女
よきサマリア人
道連れ
雪の宿
与五さんと太郎さん
夕張の春
 あとがき
 解説 堀江敏幸