みすず書房

「……曰く言いがたい何ものかのためにこそ、私は旅をするのである。それは風景であって風景ではない。それは人物であり、事件であり、言葉であり、食物であって、そのいずれでもない。それらすべての複合であって、複合ではない。私の旅から、今述べたものすべてを引いたら何が残るか。答は私以外の何ものでもない。私だけだ。いや正確には、さまざまな旅の要素の一つあるいは全体と私とがぶつかって化学反応を起し、その結果として生じた微量の化合物のようなものが、すなわち私の旅の目的なのだろう。
……そのような無形の財産が旅の目的であるとすれば、人生の目的もまた似たような姿で、似たようなところに在るのではないかと思われる。」(本文より)

ソビエトに始まり、イタリアとフランス、そして、どこよりもメキシコ。自由な精神が歩きまわった、1960年代から1970年代の世界の空気が横溢する旅行文学。

目次

ソビエト1964‐65、ロシア1992
  冬の旅
  ソ連旅日記の切抜き
  ソビエトとチェコの舞台あれこれ
  西鶴と原水爆
  ヤルタの印象
イタリア、フランス1971‐72
  旅のメモ
  ガンベッタ通りで
メキシコ、ガラパゴス1972
  半世紀を経て
  11月12日
  魔の島で
メキシコ1975
  アネネクイルコ村へ
メキシコ1977
  シャンデリアの輝き
  メリダの断片
  遺跡から機動隊まで
  タスコの一夜
  マルタとノーラ

あとがき

書評情報

週刊朝日
2012年3月23日号