みすず書房

「金魚の魚拓を一枚作ってくれませんか、形は天から火のように墜ちてくる恰好、つまり頭が地上に向き、尾が天に向く恰好、にして」
ある日、若き編集者であった著者のもとに届いた室生犀星からの一枚の葉書。やがて魚拓が完成し、その手を離れるまでのなやましい日々を描いた「炎の金魚」ほか、名ブック・デザイナーにして名文章家による40篇のエッセイ。
装幀やルリユール(製本工芸)、様々な出会いについて、ひとつひとつの出来事を、丁寧に、丹念に、たしかめるように書く。まるで、手仕事そのもののような味わい。

目次

室生犀星と私
 炎の金魚
 杏散る

作家たちとの出会い
 鐘の音と装幀
 装幀の美
 よろく
 展覧会のサイン帖
 吉岡実さんの装幀
 日録
 中野さんとのお別れ
 極彩色と無彩色
 旅のおわりの写真
 森有正『バビロンの流れのほとりにて』

本のいのち
 記憶の容器
 本と意匠
 恩地孝四郎『本の美術』
 教科書を装う
 チラチラあんどん
 「異議申し立て」
 私と文庫本
 去年のデッサン帖
 いまわたしは

ルリユール工房から
 ぜいたくな本
 手かがりの版元製本
 職業製本家
 パピヨン
 本のアーチ
 幻の雑誌『あん』
 一九八六年
 ルリユール二十年

記憶の風景
 朝の電話
 魚好き
 ギプスの音
 ボンタン実る樹のしたに
 ロベール・ジョーヌ通りのアトリエ
 革漉きの職人さんたち
 うたうこと
 黒い服
 ブリュッセルで
 うちのヤモリ
 娘に贈る『夏の花』

あとがき

書評情報

柏原成光
北海道新聞2012年2月5日(日)