みすず書房

断章としての身体

ロラン・バルト著作集 8

1971-1974

OEUVRES COMPLETES

判型 A5変型
頁数 392頁
定価 7,040円 (本体:6,400円)
ISBN 978-4-622-08118-0
Cコード C1310
発行日 2017年9月8日
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断章としての身体

1971年に出された『サド、フーリエ、ロヨラ』の「序文」は、『記号の国』でかいま見せたロマネスクの手法を明言し実践するものであった。「わたし」を用いて語り、「伝記素」や「テクストの快楽」といった言葉を登場させ、「作者の回帰」を主張したのである。そして1973年の『テクストの快楽』では、「快楽/悦楽」や「身体」の概念、独自の断章形式をみごとに開花させたのだった。1960年代に、新批評の論客、記号論的分析の第一人者であったロラン・バルトが、ロマネスクへの道に進もうとしていた、知的変貌の時期に彼が書いたこと話したことが、この巻に初訳・新訳の23篇として収められている。
自分の半生や著作について真摯に語った長大なインタビュー「返答」、『テクストの快楽』に寄り添っているように見える「エクリチュールについての変奏」は、手の動きや身ぶりとしてのエクリチュールを学術的に論じた長編であり、バルト独特の断章形式をじゅうぶんに試みる場にもなっている。また「テクスト(の理論)」は、テクストとは何か、テクストと作品の区別、テクスト理論の意義、などと同時に、「意味形成性」「フェノ‐テクストとジェノ‐テクスト」「間テクスト性」といった難解にみえる概念がわかりやすく説明されている。
その他、中国旅行の失望の経験に肯定的な価値をあたえるべく「正確」に語るための新しいエクリチュールを試みた「では、中国は?」や、バルトにとってのジャック・デリダの存在の意味が簡潔かつ誠実に語られた「ジャン・リスタへの手紙」、年来の友人モーリス・ナドーと語り合う「文学はどこへ/あるいはどこかへ行くのか?」など、いくつもの読みどころに満ちた一巻である。

目次

第八巻について(石川美子)
ロラン・バルト年表

1971
01 アルトー:エクリチュール/フィギュール(アルトーをいかに語るか)
02 序文(サヴィニャック『ポスター禁止』について)
03 個人言語の概念、最初の問いかけ、最初の探求(高等研究院年次報告)
04 返答(テレビ番組のために半生を語る)
05 ロラン・バルトをめぐる旅(『サド、フーリエ、ロヨラ』についてのインタビュー)

1972
06 ジャン・リスタへの手紙(雑誌のデリダ特集について)
07 誠実さのレッスン(ルーカーヌス『パルサリア(内乱)』の分析)
08 序文(プレヴェール『ファトラ』について)
09 読むことの理論のために(読書の生産性とは?)
10 イギリスのポスター(カタログの序文)
11 記号学の十年(1961年-1971年)——テクストの理論(高等研究院年次報告)

1973
12 エクリチュールについての変奏(「手によるエクリチュール」についての集大成的大論文)
13 未知なものはでまかせなどではない(ジャン・リスタとの対談)
14 テクスト(の理論)(『ユニヴェルサリス百科事典』の「テクスト」の項目)
15 博士論文と研究の諸問題——現代性という概念/「精神分析理論にそぐわないパラノイアの一例の報告」の分析(高等研究院年次報告)
16 多元論的思考の解放のために(蓮実重彦によるインタビュー)

1974
17 初めてのテクスト(17歳で書いたプラトン『クリトン』のパロディ)
18 ジェラール・ブランの『ペリカン』(小さな映画論)
19 では、中国は?(中国旅行から帰って発表したエッセー)
20 〈ユートピア〉(イタリアで発表された小さなユートピア論)
21 ある作者固有の語彙集(個人言語)の構築にかかわる諸問題の研究——伝記についての共同作業——声(高等研究院年次報告)
22 文学はどこへ/あるいはどこかへ行くのか?(モーリス・ナドーとの対話)
23 神話作用(アンケート「知識人を問う」への回答

訳者あとがき
ロラン・バルトとエクリチュール(吉村和明)