みすず書房

社会が変わってしまったと感じる人は多いのではないか。時代は新たな殖産興業・富国強兵、米国に寄り添う新しい大日本帝国に向かっているように見える。
なぜ自分は危機的状況をうがつ仕事を続けてきたのだろう。経済ジャーナリストである著者は、自らの根っこを掘り下げる。
11年間シベリアに抑留された父と東京大空襲の被災者だった母、戦争をひきずる両親は東京・池袋で鉄屑屋を営み、必死に昭和を生き抜いた……。
失われたものは、誇りを持って生きていける自営業の暮らしと経済。自律した在り方を許容する社会。少年漫画の熱狂。「みんなが手と手を合わせれば」の歌。「ネーミング詐欺」ではない政治の言葉。
いわゆる戦後民主主義は共同幻想だったのかもしれない。現実には戦争も差別もあった。しかし体験に裏づけられた夢だった。当時と、平和と平等の理想さえ抱けない現在との差は、とてつもなく大きい。
「今、大きな渦があって、私たちはその縁(ふち)にいる……」漫画家ちばてつや氏との25年ぶりの対話を収録。著者の初めてのエッセイ集は、会心の庶民史となった。

目次

自分にとって一番たいせつなもの
東京都豊島区立竹岡養護学園
いのちは言葉から壊れる
走るエイトマンとジャーナリストへの憧れ
戦後・自営業者共同体の街で出会った“知”
酒と煙草と大人の世界
池袋の夜・魔物と暴走の時間
非効率分野に「選択と集中」のシナリオ
『私たちが拓く日本の未来』の主権者
みんなが手と手を合わせれば
母の信心
最後には覚悟、そして運
スパイラルの縁で──『紫電改のタカ』と二十五年ぶりのちばてつや氏

あとがき

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