みすず書房

大気を変える錬金術【新装版】

ハーバー、ボッシュと化学の世紀

THE ALCHEMY OF AIR

判型 四六判
頁数 344頁
定価 4,840円 (本体:4,400円)
ISBN 978-4-622-08658-1
Cコード C1043
発行日 2017年9月7日
備考 現在品切
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大気を変える錬金術【新装版】

空気から固定窒素をつくるハーバー=ボッシュ法の発明は、化学の力で文字どおり世界を一変する半世紀をひらいた。固定窒素は“賢者の石”であり、「それを探そうとする者はそれぞれ強迫的な思いにとりつかれ、それぞれの悲劇を味わった」
発明の前史から説き起こしているが、本書の中心はハーバーとボッシュ、とりわけカール・ボッシュの物語だ。アンモニア合成法の発明によって物質変換の威力の虜となり、一個人には背負いきれないほどの社会的責任を担ってしまった一人の天才的なエンジニアとして、ボッシュの人物像が浮かび上がる。彼が直接間接にかかわった無数の命の重さを考えれば、ときに表層的とも思える描像ではあるが、にもかかわらず読む者を何度も戦慄させるに足る事実がここには書かれている。将来、エネルギーと環境の問題を克服する夢の科学技術が現れるなら、それこそは、人類が絶対にあけてはならないパンドラの箱かもしれない。
大量の固定窒素が生物圏全体を変質させ、戦争の形態を変え、ヨーロッパの政治経済を大きく変容させた。発展の裏で人々にもたらされた悲惨、環境への負荷の大きさもまた、計りしれない。最終章では窒素サイクルを変えた人類へのしっぺ返しともいうべき、グローバルな環境影響が明かされる。今日の繁栄の代償の大きさに言葉を失う。

目次

はじめに 空気の産物

第I部 地球の終焉
1 危機の予測
2 硝石の価値
3 グアノの島
4 硝石戦争
5 チリ硝石の時代

第II部 賢者の石
6 ユダヤ人、フリッツ・ハーバー
7 BASFの賭け
8 ターニングポイント
9 促進剤(プロモーター)
10 ボッシュの解決法
11 アンモニアの奔流
12 戦争のための固定窒素

第III部 SYN
13 ハーバーの毒ガス戦
14 敗戦の屈辱
15 献身、犠牲、迷走
16 不確実性の門
17 合成ガソリン
18 ファルベンとロイナ工場の夢
19 大恐慌のなかで
20 ハーバー、ボッシュとヒトラー
21 悪魔との契約
22 窒素サイクルの改変

エピローグ

解説(白川英樹)
参考文献
出典について
索引