みすず書房

臨床日記【新装版】

JOURNAL CLINIQUE

判型 A5判
頁数 384頁
定価 7,260円 (本体:6,600円)
ISBN 978-4-622-08695-6
Cコード C3047
発行日 2018年4月9日
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臨床日記【新装版】

フロイトの『夢判断』刊行とともに幕を開けた20世紀は、精神分析の世紀だったとも言われる。しかし、その萌芽期や発展期に考えられ実践されてきた重大な成果を、われわれは遺産として、十分に受け継いでいるであろうか。ここにはじめて公刊するフェレンツィの『臨床日記』は、精神分析の可能性をぎりぎりまで押し進めた人の思索の軌跡であり、精神分析史上もっとも重要なドキュメントである。
ハンガリー出身でフロイトの一番弟子だったシャーンドル・フェレンツィは、死の前年の1932年、分析医である自分自身と患者のために、日記を書き付けた。精神分析運動がもっとも活発だった時期をほぼフロイトと同行していたフェレンツィの思想のすべてが、ときに荒っぽい形であれ、ここには表現されている。フェレンツィにとって、人間とは人間関係のことであり、人間関係とは広い意味で性関係のことであった。この日記に頻出する医師と患者のあいだの相互分析をめぐる議論は、まさに迫真である。また、心的外傷(トラウマ)問題の重要性をくりかえし説き、立ち入って考察している。
人間の心のあり方やその障害像を、そのニュアンスの陰影までかくも繊細かつ大胆に言葉に刻みつけた本は、稀であろう。ここには、師を批判しつつも、フロイトが提起したり萌芽状態のままにしておいた問題を徹底して押し進めていった弟子の姿がある。「人間の生の謎を解く鍵をみつけた」かのように思っていたでもあろう当時の高揚した雰囲気を、ときに苦悩を介してであれ、生き生きと伝えてもいる驚異の書である。本書によってようやく、フェレンツィという存在に、光があたる。

[初版2000年11月22日発行]

目次

まえがき  ジュディット・デュポン
謝辞
『日記』のための序  マイケル・バリント
編集注記

臨床日記(1932)
分析家の感情欠如(1月7日)/自然で科学的な態度/ヒステリーは身体による思考である(1月10日)/進行性分裂病——症例(1月12日)/相互分析とその適用限界(1月17日)/続相互分析(1月19日)/他者の意志による暗示、威嚇、押しつけ(1月24日)/退屈について(1月26日)/ヒステリー性抑圧、転換。カタルシス的退行によるその起源の暴露(1月28日)/カタルシスの破綻とその修復(1月31日)/相互分析のジレンマ(2月2日)/心的ショックの心因について(2月4日)/不快感の「肯定」について(2月14日)/相互分析の限界さまざま(2月16日)/相互性について(2月20日)/断片化(2月21日)/身体と心の機能様式/自然の男性原理、女性原理について(2月23日)/[相互分析——編者](2月24日)/無意識状態における心的外傷(2月24日)/相互性の主題について(3月3日)/苦しみのテロリズムについて/相互性(3月6日)/精神病における現実回避の傾向についての一般的視点(3月6日)/葬儀人としての分析家(3月8日)/精神療法における癒し(ヒーリング)(3月10日)/二人子供分析(3月13日)/賞賛が必要/自生自我および外生自我(S・I)(3月15日)/激しい感情移入の利点と欠点(3月17日)/人格の分裂を現実のものと見なさないことから生じる障壁(3月17日)/ヒステリー発作について(3月20日)/症状と夢とカタルシスにおける心的外傷の回帰、抑圧と人格の分裂、カタルシス中およびカタルシス後の抑圧の解体(3月22日)/心の包帯(3月25日)/相互分析から一方的に分析される状態への移行(3月29日)/相互分析。実践による決断。分析の場に複数の患者がいる事態から生じる錯綜(3月21日)/心的内容および心的エネルギーの外移植ないし移植(S・I)(4月3日)/憎しみはすべて投影であり、そもそも精神病質的である(4月5日)/男性の同性愛と女性の同性愛の本質的相違/エディプス葛藤に必然的にともなう付加要素/幼い子供に押しつけられた「強制的な」能動的ないし受身的な性器的要求の長期的影響について(4月5日)/精神病患者の子供の運命(4月7日)/すべてのパラノイアの基盤としてのエロトマニア(4月10日)/分析家のリラクセーション(4月12日)/パラノイアと嗅覚(4月24日)/性的能力の条件としてのポルノファジー(4月26日)/ファルス礼賛理解へのヒント(4月26日)/男性的「反抗」の結果としての反‐同性愛(4月26日)/どちらが狂っているのか、われわれかそれとも患者か(5月1日)/患者‐分析家間の無意識的な感受性の闘い(5月3日)/[「相互分析」の歴史——編者](5月3日)/外的な活動亢進および強迫神経症、女性同性愛によって覆われた分裂病様内的空虚。ほとんど二年にもおよぶ「堆積」期間のあとで突然改善へ方向転換。分析家による「呼び覚まし」の影響が明白(O・S)(5月8日)/外傷的自己絞殺(5月10日)/外傷反復強迫(5月12日)/同性愛的外傷、(女性)同性愛への逃避(5月17日)/罪意識の発生要因について(5月19日)/自己喪失(マイナス自我)(5月29日)/科学的真実発見/思考における自我の持続的無視(抽象化)/話すこと(6月1日)/意識化過程とは何か(6月1日)/リビドー理論と神経症理論のための理論的結論(6月3日)/最初の不安より前の時代への退行/教育分析が例外であってはならない!(6月3日)/情熱への道。終結(6月3日)/情熱(6月3日)/心身症(6月9日)/沈黙の義務(6月10日)/患者を憎む医者(6月12日)/自らの人格に関する混乱(6月12日)/技法。失敗(客観性のかわりに気分の動揺)(1)関与(2)告白(3)修正(6月12日)/耐えがたくなった感覚の心的逆備給(6月12日)/霊の世界との友好的関係/教え子との失敗/対象リビドーの持続的障害(6月14日)/正常な女性同性愛(6月14日)/同性愛からの転向/環境による認知の産物としての個人感覚(自らの大きさ、形、価値の感覚)(6月16日)/相互性の新段階(6月18日)/精神を病むものに特有のにおい(6月19日)/別の動機による女性のペニス願望(6月20日)/いつまでも続く睡眠中の外傷性呼吸障害(6月21日)/つづき(6月22日)/心的外傷の麻痺(6月23日)/恐ろしい呪いの持続作用(おそらく遠隔作用も)(6月26日)/他者の苦痛を和らげたい、あるいは他者を援助したい、才能を伸ばしてやりたいという強迫について(6月26日)/聞き落としについて 失策行為の一特殊形態(6月24日)/抑圧過程/不能の症例に対する苦痛緩和原則としての女性性(6月28日)/ユートピア。憎悪衝動の排除、残虐性の血讐的連鎖の打ち止め。認識コントロールによる全自然の漸進的馴致(6月28日)/成人心理学の子供への投影(誤り)(6月30日)/偽善と反逆児(アンファン・テリブル)(6月30日)/分裂病は「光化学的」模倣‐反応である/大人の情熱の、性格神経症と子供の性発達への影響/われわれ自身の情熱ないし情熱性の子供への投影(7月6日)/逆転移の効用と困難、すなわちその適用限界/鏡像と反転(7月7日)/論理的帰結と「努力貫徹」(性格の強さ)の「輝かしい成果」(はじめての?)としての自らのパラノイアへの洞察(7月19日)/覚醒しつつあるBの自意識(子供)/カオスのなかの秩序(7月19日)/羞恥心について(7月21日)/Bについての分析実験(7月23日)/除反応について(7月24日)/同一化対憎しみ/心的外傷における同一化/抑圧/倒錯は固着ではなく、恐怖の産物である/クリトリスとヴァギナ(7月26日)/エディプス・コンプレックスの見直し(7月26日)/激怒は抑圧過程に何らかの役割を演じるか(7月27日)/家族内における正常ないし病理的な性関係/何が外傷的か。攻撃かその結果か/患者との残酷なゲーム/果てしなく繰り返す「文字どおりの」反復——しかし想起は起こらない(7月30日)/「心的外傷」とは何か/分析を失敗に導いた個人的原因(8月4日)/自生的‐罪悪感(8月7日)/一人でいることに耐えること(8月8日)/心的外傷の再生のみでは治療効果はない/分析家の潜在的サディズムと色情亢進の危険/犯罪性についての覚え書(8月11日)/機能分裂の主観的描写(8月12日)/精神分析の罪科目録(8月13日)/心的外傷と人格の分裂、感情と知性の離断(8月14日)/大人自身に現実に存在する近親姦傾向を子供と患者へ投影。幼児的幻想と、現実に同じことが行なわれる場合との差異を理解しない(8月17日)/断片化への補足(8月17日)/自発性が活力を蘇らせ——挑発は気を滅入らせる(8月22日)/近親姦タブーの厳格さが近親姦への固着の原因か(8月24日)/精神的無能力への防衛手段としての極端な健康あるいは身体的適応能力/罪科目録の見直し/精神分析には暗示への不安がある/一人でいること/「苦しみのテロリズム」/ψにおける退行——分析中にψ‐胎児状態(10月2日)/相互性——必須条件/前進

訳者解説
索引