みすず書房

アタッチメント理論は、英国の児童精神科医J・ボウルビィ(1907-90)により創始された。アタッチメント理論とは「人間には危険にさらされた人間が身を守るために特定の他者に接近する行動、そして接近された人間は相手を保護しようとする行動、そのいずれもが生得的反応として備わっている」と提唱した説であり、ボウルビィはそれらの対人関係行動を「アタッチメント」という概念で抽出している。
ボウルビィの主著『母子関係の理論』の完成から四半世紀が過ぎ、アタッチメント概念は心理学の世界でもはや母子関係の枠を超えて、人間理解に用いられている。本書はアタッチメント・スタイル・インタビュー(ASI)と呼ばれるアタッチメントの測定法の第一人者である著者が、ボウルビィ以後の研究を俯瞰し、今日的水準のアタッチメント理論を構築するとともに、心理臨床への応用を論じたものである。
思春期のとらえがたい心性にどのように接近し、どのように触れ、心理療法へどのように生かすのか。アタッチメント理論を十分に咀嚼し、面接過程に織り込まれるように思春期のこころの動きを巧みに論じた臨床素材は、日々の臨床の実感に溢れている。
精神分析理論と発達理論をつなぐ触媒となるとともに、思春期理解の方法論を鮮やかに論じた、アタッチメント論の重要書。

[初版2010年2月9日発行]

目次

序文  吉田敬子
はじめに

第1章 アタッチメントとは
1 ボウルビィによるアタッチメント理論の基礎
2 アタッチメント・システムの機能
3 内的作業モデル
4 アタッチメントの内的作業モデルの個体差
5 アタッチメントの内的作業モデルの型の形成
6 アタッチメントと適応

第2章 アタッチメントの測定と内的作業モデル
1 アタッチメントの個人差研究
2 ASIにおけるアタッチメントの個人差の構造と測定
3 内的作業モデル再考

第3章 思春期におけるアタッチメント
1 思春期の始まり
2 自立をめぐる葛藤
3 現代の日本社会における思春期
4 アタッチメント対象の移行
5 アタッチメント関係と友人関係
6 アタッチメント関係と恋愛関係

第4章 精神的健康の防御要因としてのアタッチメント
1 防御要因としての安定型アタッチメント
2 不安定型アタッチメントを形成する要因

第5章 心理療法の初期におけるアタッチメント
1 援助関係の始まりとアタッチメント
2 アタッチメントの安定性と精神的な危機
3 アタッチメント・スタイルと心理療法の初期の接近

第6章 心理療法の過程と終結におけるアタッチメント
1 治療過程におけるアタッチメント
2 治療関係における同一化とアタッチメント
3 治療過程における内的作業モデルの変化
4 心理療法の終結とアタッチメント

あとがき
索引